光のつぶだちが
まぶたの裏でおどる
日曜日の午前中
私は あなたと
散歩に出かけた
ウルトラマリンの
ノースリーブからのびた
白くほそい腕
あなたの横顔を
盗みみると
神秘がひそんでいる
私たちは
久しぶりに影ふみをする
私が鬼で
あなたが逃げる
あなたの影は
小さくてすばしっこい
ひょいと
樹々の影に同化して
大きな熊になったかと思えば
急に影を見失う
ふたたび
あなたの影が
光の中へおどりだす
やわらかい輪郭を有する影は
長くのびた 私の影に
ふれようとする
その時
太陽が雲に隠れて
私たちの影も引っ込む
もう少しだったのに と私は言う
また戻ってくるよ とあなたは言う
私たちは
手をつないで
透きとおるような
緑の丘に登る
あなたの眼は水のようだ
見るたびに
瞳に映りこむ光景が
刻々と移り変わっていく
ふと
あなたの頬にちいさな粒が
転がっているのを発見する
ふと
私の頬にも大きな粒が
転がっているのを発見する
頭上では
灰色のあまぐもが覆い
私たちは駆け出す
全力で
私とあなたの背後に
雨粒が落ちる
ぱらぱらぱらぱら
大きな樹の下で
雨粒が軽快なリズムを鳴らす
私たちは
あなたが まだ
胎児だった時のように
一塊になって
しばしの眠りにつく
そうして
樹々の花がほころびかけた時
私はうっすらと
まぶたを開ける
まばゆい透明な光の中で
あなたとあなたの影が
向かい合って話をしている
心地よい風のようなささやき声
私は
もう一度
まぶたを閉じる
まぶたの裏で光が乱反射して
あなたたちの声が
ちいさな空間で
揺らめきあう
もう一度まぶたを開き
あなたたちを捉えたい
という欲求をおさえて
私は
心のなかで 言葉を
かたちつくることにする
おかえりなさい
Story: Arata Sasaki (HP / Instagram)
Illustration: Emi Ueoka (HP / Instagram)
