からからに乾いた
喉を潤すために
小川へ向かう
水辺には
柔らかい月明かりを受けた
小さな熊が座っている
とても悲しみに沈んだ
きみの影に会った
熊が言葉をかける
人の影は寡黙
だから
ぼくたちは
彼らをよく観察する
きみは
影が逃げた理由を
知らないだろう
いつの間にか
かける言葉を失い
ぼくたちを
忘れてしまったからさ
そのとき
わたしの心は
鋭利なナイフで切り裂かれ
血が一滴こぼれる
大きな口が
血を受けとめる
きみは きっと
この影の世界で
自分を知る
これまでは
蚕のように
やわらかい繭が
何重にもなって
きみを守ってきた
きみはこれから
繭の外に出て
この世界のいろんな影に会う
影たちは
きみが知っているものたちの
もうひとつの形
あるいは
きみ自身の内に眠る声
きみではない誰かでありながら
きみの一部でもある
そのものたちに触れて
ふたたび
溶けあってみればいい
熊はわたしの頬を触れる
それから
月が雲に隠れるまで
たっぷり時間をかけて
消えてしまう
Story: Arata Sasaki (HP / Instagram)
Illustration: Emi Ueoka (HP / Instagram)