you and shadow story 10 – 覗きこんだ世界

ぼやけた緑が
まぶたの裏で
ゆれている
礼儀正しく静かな森が
わたしを待っていた
森は わたしを
受け入れてくれる
焦ったり 急いだり 躊躇ったりせず
まっすぐ透明な力に後押しされて
森の奥へ進む
足裏には
やわらかい土がある
ここは確かに実在する森だ
樹々のカーテンが揺れて
隙間から光の糸が垂れる
その眩しさに 思わず
まぶたを閉じてしまう
無数の光線を浴びて
わたしの内にある
やわらかい かたちなきものが
ゆっくり 輪郭をつくっていく
細胞が
死を受け入れることで
ふたたび 生まれ変わろうとする
そのことを わたしは
意識することができる
森を抜けた先の光景を
いつか見たことがあった
影を追っているうちに
何度も何度も見た光景
草原 月 太陽 雨 水 光
虹彩 波紋 湖
親友 わたしの影
きっとわたしは
ようやく湖と
向き合う準備が整ったのだ
湖に映りこむのは親友ではない
これまで見るのが恐ろしかった
目鼻立ちをひっくり返した
わたし自身
ずっと以前から
こうなることを知っていた
湖に映るわたしは
わずかに緊張して
表情はこわばっている
恐れながらも ふれる
伸ばした人差し指が
世界に波紋を生み出していく
小さな輪が広がり
波をつくり
大きな輪になって
やがて消えていく
それでも
その世界の住人は
じっと息をひそめて
わたしを見返している
影たちが
そこに潜んでいる
影に笑いかける
わたしの姿が
影の目の中で
光っている
いったいいつから
わたしはそこにいたのか
答えはかえってこない
それでも
わたしの口の動きと同じように
湖に映る影は言葉をかたちづくる
ごめんなさい
またよろしくね

 
 
 

Story: Arata Sasaki (HP / Instagram)
Illustration: Emi Ueoka (HP / Instagram)

 

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