you and shadow story 02 – 白い影

そらは絵画世界のようで
小さな星々が渦を巻きながら
旅を祝福している
最初の山を登り始めたころ
世界の光がふいに消滅する
わたしの心の中の
湧き立つような高揚感は消えさり
深いかげりを帯びた闇が
音もなく這い上がってくる
まぶたを閉じると
月光の残像が重なっていく
その中心に ぼんやりとひかる
白い影が漂っている
ユーレイのように
ゆらゆらと揺れて
大きな両眼が
らんらんと輝いている
ふいに
白くやわらかい笑みが
こぼれる
いつしか
わたしが起きる時
あなたが眠り
わたしが眠る時
あなたが起きるようになった
わたしたちは最初から
離ればなれなるのが
決まっていたみたい
朝と夜みたいに
白い影が揺れて
闇の中に滑り込む
どこに行くの?
どこにも行かないよ
わたしは
あなたに眠る
もうひとりのあなた
逃げ出した影の片割れ
あなたの中でわたしは生まれた
だから
あなたがわたしを忘れなければ
ずっとここにいる
誰かにとっての平凡な日が
特別な日になることがある
今日という日
わたしは初めて旅に出る
わたしは待っていた
耳を澄ましてみて
声が聴こえるのはその証
何もおそれることはない
これはわたしたちの旅
まぶたを開くと
白い影が踊りながら消える
わたしの細胞が
暗闇に順応していく
もう
まぶたを閉じても
白い影は戻ってはこない

 
 
 

Story: Arata Sasaki (HP / Instagram)
Illustration: Emi Ueoka (HP / Instagram)

 

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