月が打ち落とされて
森が焼かれた日
小さなあなたがやってくる
熟した林檎のように
頬を 真っ赤に染めて
泣き声をあげるあなた
私たちは
あなたをやさしく迎えいれる
羽毛のような呼吸で
あなたはそれに応える
あなたは小さな頃
感情を出し惜しみしたりせず
かなしい時には思いきり泣き
うれしい時には思いきり笑った
言葉を覚えると 光のかたわらで
人なつっこく微笑みながら
世界に臆することなく
鼻にかかった声で言葉をあやつる
想像力がたくましいあなたは
いろいろな遊びを生み出す
自分の影とお話しをして
ユーレイとともに遊び
空に浮かんで世界を眺める
あなたに個室が与えられて
ひとりで眠れるようになっても
私たちの寝室に入ってきて
隙間にすっぽりおさまる
あなたに最初の友人ができた時
私たちはとても喜んだ
兄弟姉妹がいないあなたはずっと
遊び相手になる人を欲しがっていた
あなたとあなたの友人は
よく私たちの目を盗んで
家の近くにある おおきな湖に出かけた
姿形をくっきり映し出す鏡のような湖へ
あなたと友人は石を投げたり
湖面を覗きこんで
底に泳ぐ美しい魚を発見して遊ぶ
山頂の雪片が溶け始める初春のある日
友人は深い湖底に沈んでしまう
湖底に住む美しい魚をつかまえてと
あなたは友人にお願いをしたのだ
あなたは
雪の彫刻のように
冷たくなって
私たちの元に戻ってきた
友人を失ってから
あなたは冬の月のように物静かに
水を恐れて 気配を押し殺すように
生きるようになった
私たちは
湖から遠く離れた町の
丘の上の家に引っ越しをする
それから
しばらくして
あなたは自分の影が
なくなっていることに気づく
小さな頃にはよくお話しをして
一緒に遊んでいたあなたの影
なめらかな月が
地上の影をぼんやり照らし出す真夜中
私たちが眠りに落ちた頃
あなたはひとりで家を抜け出す
あなたは
初めて自分で決意をする
自分の影を探して
ふたたび取り戻す旅を
Story: Arata Sasaki (HP / Instagram)
Illustration: Emi Ueoka (HP / Instagram)