you and shadow story 03 – 湖

土と緑の匂いをはらんだ大地に
疲れを覚えた身体が
ゆっくりと染み込んでいく
おやすみなさい
風のように抜けていく
柔らかい声が通り過ぎて
わたしは やすらかに
眠りに落ちる
夢の中で
湖の底に
消えてしまった
友に会う
一卵双生児のように
わたしとよく似た彼女
その遠い記憶には
さまざな色彩が溢れている
光に満ち 音が漂い
心地よい 動きと響きが
混ざりあっている
それでも
わたしたちは
異なる子どもだった
友は人前に出ることを好まない
切実な想いを胸にとどめて
真実の言葉しか口にしない
言われのない罪で責められると
わたしが友をかばった
友はわたしの影のようだった
わたしは
深く考えずに行動するものだから
多くの生傷をこしらえた
その度に
友は
わたしが
まだ知らない
啓示的な
言葉をかけた
そうして
わたしの
無意識の部分に
思慮深い種をまいた
太古の人々が太陽と月に
それぞれ異なる神を見て
その光を愛したように
わたしたちは
二人でひとつだった
わたしたちは
お互いを
必要としていた
わたしが
彼女についた
小さな嘘は 日に日に
大きくなって
いつしか 友の目を
まともに見返すことができなくなった
友のまっすぐな眼差しを受けると
目を背けてしまう
友から
その湖のありかを教えてもらったは
それから間もなくのこと
心が曇った時に湖に行く
彼女はわたしに囁いた
その湖に自分を写すと
いつもとは違う自分が写りこむのだと
それから
わたしは月明かりの夜
秘密の湖へ
こっそりひとりで
行くようになる
そこは幾多の死を知る湖
だからこそ 暗闇の中でも 
湖面はきらきらと輝き
人を無用にも惹きつける
光を発している
初めて訪れた時から
わたしは
そのことをどこかで感じ
そのことをどこかで知り
そのことをどこかで理解していた

 
 
 

Story: Arata Sasaki (HP / Instagram)
Illustration: Emi Ueoka (HP / Instagram)

 

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