you and shadow story 03 – あなたたちの湖

東の空がうっすらと白み始めた頃
あなたは大きな楡の木を発見して
その大きな葉傘の下に小さなテントを張った。

 

土と緑の匂いをはらんだ地に身をあずけると
あなたは疲れが地に染み込んでいくのがわかった。

 

馴れない環境で少し疲れている。
良く寝てね。おやすみなさい。

 

心を抜けていくような
柔らかい声が通り過ぎていき
あなたはやすらかに眠りについた。

 

あなたは夢の中でどこに消えてしまった親友に会う。
一卵双生児のようにあなたとよく似た親友。

 

小さな頃からいつも一緒だったあなたたち。
同じようなものに心を波打たせ 似た感性を育んだ。

 

あなたたちが二人でいると そこにはさまざな色彩に溢れた。
光に満ち 音が漂い 心地よい動きと響きがあった。

 

あなたたちは容貌もよく似ていた。
顔の形 手の形 歯並びにいたるまで。

 

それでも あなたたちは異なる子どもだった。
あなたは太陽のような子ども。
親友は月のような子ども。

 

あなたは小さな頃 何かと耳目を集める子だった。
言動にどこかしら愛嬌と華やかさがあり
行く先々で花がぱっと開いた。

 

親友は人前に出ることをあまり好まなかった。
切実な想いを胸に留めて 真実の言葉しか口にしなかった。

 

弁明する言葉すら呑み込んでいたから
誤解されることも多く 言われのない罪で責められると
あなたが矢面に立ち 親友を庇った。
親友はあなたの背中に周り まるであなたの影のように寄り添った。

 

反対にあなたは 深く考えずに行動するものだから
多くの生傷をこしらえた。
その度に 親友は あなたがまだ知らない啓示的な言葉をかけてくれた。
そうして あなたの無意識の部分に思慮深さの種を蒔いた。

 

太古の人々が太陽と月に
それぞれの異なる神を見て
その光を欲したように
周りの人々はあなたたちふたりを愛していたし
あなたたち自身もお互いを必要としていた。

 

あなたが親友を失う少し前
あなたは保身の為に嘘をついて
結果的に親友を傷つけてしまった。

 

最初は 罪とは呼べないくらいの
とるに足らない 小さな嘘だった。

 

親友はその嘘が
あなたからの発露であることも知らなければ
どこかで自分が損なわれていることも知らなかった。

 

その小さな嘘は 日に日に
あなたの内で大きくなって
いつしか親友の目をまともに見返すことができなくなった。

 

親友のまっすぐな眼差しを受けると
人を撥ね付けるものはない筈なのに
あなたは自責の念に堪えられなくなって目を背けた。

 

あなたは逃げるように新しい友人を作り
少しずつ少しずつあなたたちは離れていった。

 

あなたが親友に その湖を教えてもらったは
それから間もなくのことだった。

 

親友は 遠く隔っていくあなたを取り戻すべく
よくふたりで遊んだ森の奥に
秘密の湖があることを教えてくれた。

 

「何か心が曇った時に湖に行くの。
そこはわたしの秘密の場所で
まだ誰も知らないし 誰にも教えたこともない」
親友は あなたが沈黙の中に吸い込まれるのを見てとって 言葉をついだ。

 

「その湖に自分を写すとね
自分の中でふだん隠れていたものが浮かびあがってくるの。
湖に映るわたたしをぼんやり見ていると
自分の内にあるものとお話しができるのよ。
ふだん眠っている もうひとりの自分みたいもの。
だからね わたしは自分を見失しないそうな時
いつも秘密の湖で自分を映し出しに行くの」

 

雪解けによって 湖が美しい水に満ちた ある春の日の真夜中。
あなたは親友に教えてもらった秘密の湖へ行った。

 

星々が闇の中で綺麗に瞬き ガラス玉に閉じめられた世界のように
その手ですべてが触れられるかのような日だった。

 

湖は 人が寄り付かない 森の奥まった場所にあって
仄かな月明かりに照らし出され
地上から浮遊しているように見えた。

 

湖の上で 月光が湖面に反射してきらきらと輝き
その漂うような光輝に引き寄せられるように
あなたは湖へと向かっていった。

 
 
 

Story: Arata Sasaki (HP / Instagram)
Illustration: Emi Ueoka (HP / Instagram)

Leave a Comment