私が幼少の頃育った町は山の中腹にあり、地平線がはるか遠くに見てとることができました。そこでは朝目覚めて太陽が顔を出す時も、家に帰る時に夕陽が沈む時も、地平線を境に世界が様変わりしていました。
随分昔のことなので、それが何歳頃のことなのか覚えていませんが、薄暗い夜明け前に家から飛び出して、地平線から現れる太陽を待っていたことがあります。どこからその力が湧き上がってきていたのかわかりませんが、早く起きて遊びたくて遊びたくて仕方がなかったのでしょう。玩具もそんなにいっぱいあった訳でもありませんし、お金も大して持っていなかった。当然、自分たちの力でどこか遠くに行ける訳でもなく、今考えるとかなり制約があったのですが、その頃は何もかもが初めてのことで、それだけで世界は輝いて見えた。
いつからか地平線というものをあまり意識しなくなり、一日の始まりや終わりに何も感じなくなってしまいました。時間に追われて一日を楽しむ暇さえなく、あれもしなければ、これもしなければと義務だけが増えてきています。
その意識が変わってきたのは、昨年、娘が生まれて、東京から故郷に戻って生活が子ども中心になってきたことでしょう。子どもの一日のリズムに合わせて(つまり日の出、日の入りに合わせて)、焦らずゆっくり余裕を持って生きるようになってきました。
そうした生活の変化の中、本書を読んで、小さかった頃に感じていた一日が始まる、あの地平線を眺めていた時の感覚を思い出しました。私は飲み込まれてしまうくらいの大きな遠景を目の前にして、今日という一日にとても期待していた。何が起こるのか、どのようにして楽しんでやろうか、ワクワクしていた。
その時の心にもう戻ることはできないかもしれませんが、これからは子どもと一緒に地平線をなるべく眺めてみようと思っています。きっと、子どもの隣で、彼女の顔が輝いているのを見るだけで、私の心は洗われていくような気がします。
本書は、子どものころに感じていた 『今日』という日に期待する原風景が詰まった絵本です。季節の移ろい、突然の雨、特別な夜、船が通り、貨物列車が走る。そのすべてが特別で、かけがえのない瞬間であることを子どもと一緒に心に留めておきたいです。