家族のかたち – 大江家 後編

 

 宮城県仙台市在住の大江一家は、大江ようさん、大江えみさん、長男 ゆう君、次男 すず君、長女 あおちゃんの五人家族。仙台に一家で移住したのは、2018年4月。大江ようさんが東京で勤めていたアパレルメーカーを退職後、コンテキストの保存と活用を目的とした、テキスタイルファウンデーション「TEXT」を立ち上げて独立したことがきっかけで、仕事のことや子供の将来のことを考えて決断したと言います。
 私と大江ようさんは、東京の共通の友人を通じて知り合いましたが、二人で飲みに行くことはあっても、家族に会うのは初めてのことでした。家族の方がどのように迎えてくれるのか心配でしたが、いざ仙台駅から車で数分、とても落ち着いた一軒家に入ると、子どもたちの賑やかな声に包まれました。人見知りのあおちゃんも少しずつ、ゆう君とすず君に触発されて、微笑むように。
 結局、最初から最後まで、子どもたちの大きな笑い声に包まれる、生命力溢れたインタビューとなりました。

 

子育てにおける役割
あえて役割を決めないゆるいジェンダーの形
─ 子育ての役割はありますか?
えみ : 私たちの場合、特に役割はありません。例えば、食事を作ることに関しても、私が今日は頑張って仕事したいという時は、夫が料理を担当します。どちらも忙しくて無理ならば、買ってきたり、外食したりします。
よう:何となく相手の空気を見て、忙しくない方が動くことにしていますね。料理を作ったり、お風呂に入れさせたり。役割はその時、その瞬間でどんどん変わっていきます。
─ 役割を決めないと喧嘩になりそうですが。
えみ : 私と夫は友人のような関係だから成り立っていると思います。ふたりとも家で仕事をしていることもあって、私の仕事を見ているし、どちらが優先だとか気にせず、おたがい対等に動いています。私がやることに対しても応援してくれるので、本当にありがたいし、だからこそ、この流動的な形が成り立っているのだなと思っています。

 



テキスタイルファウンデーション「TEXT」のアトリエ。長男 ゆう君が工程の一部を実演してくれました

 

─ 家族でファミリープロジェクトをやっているので、このようなやわらかい形の子育てができているかもしれませんね。
よう : 役割をきっちりと決めてしまうと、さいしょは期待で始まったものが、管理しなければならない義務に変わってしまうのですよね。
えみ : 私は決めちゃうと、結構期待しちゃいます 笑
よう : 僕は決められると、やらなくなっちゃうんですよ 笑 そして、「やらなかった先に、もしなにか深い理由があったら、、、?と、想像力を持って考えて欲しいんだよ!!」というタイプの逆ギレで妻に訴えかけ、そのままはぐらかそうとします 笑
えみ : 本当によくわからない方向から突きつけられるので、私も何を訴えていたか忘れてしまいます 笑 夫はこの手の正当化がプロフェッショナルなので、何だか私の方が悪いように感じてしまう。でも結局は、私も自由にさせてもらっているから、相手のわがままの許せるかなと思います。

 


お父さんとお母さんが喧嘩をするのはもっと仲良くなる為だよね? 次男すず君の言葉

 

夫婦喧嘩をした時
子供は繋げてくれる役割でもある
─ 喧嘩してしまう時はどうしていますか?
えみ : 明確な解決はありませんが、子供がいなかったらずっと喧嘩したままかもしれないと思う時があります。子供がいると、嫌でも会話しなければいけないことがいっぱいありますし、一緒にいると何となく笑ってしまうこともあって、何となくちくちくしていたものがとれていく感じがしますね。どっちかが謝るというよりも、少しずつ近くなっていく感覚。
 以前、次男のすずが「喧嘩するほど仲が良い」ということばをどこかで覚えていたようで 、「お父さんとお母さんが喧嘩をするのはもっと仲良くなる為だよね?」と尋ねてきた時は、頷くしかありませんでした。それを言われたら、もう親として何も言えなくなっちゃう。だから「そうだよ」って答えました。
よう : 僕たちは子どもの前で喧嘩をすることが悪いとは思ってないんですね。仲が悪いから喧嘩している訳ではないことをしっかり伝えれば良いと。冷戦の方が怖いですからね。三木聡監督の映画「転々」の中で、三浦友和演じる夫婦が、「喧嘩した後、どちらともなく『オーギョーチーにいこう。』っていったら仲直りの合図だ。」というようなシーンがあるんですが、なんとなくそんな和平の瞬間が子どもを通していつも来ている気がしています。

 


インタビュー中、何度もお母さんお父さんの元に飛び込んでくる長女あおちゃん

 

子供を持って変わったこと
無条件に求めてくれる人がいるという相互の肯定感
─ 子どもを持って変わったことはありますか?
えみ : 自分に自信がつきました。私は昔から「ここに居ていいのだろうか」といっぽ引いてしまったりする人間だったのですが、子供が生まれてから、その気持ちを拭うような肯定感が生まれました。これは誰に言われても治らなかったのですが、子どもたちによってすごく意識が開かれたような気がします。
 自分に自信がない中で、「無条件に自分を求めてくれる人がいる」ということはとても大切なことだったなと感じさせられました。現代的な虚無感も、子供たちの時代には繋がるかもしれないと思うようになったことも意識の変化のひとつですね。自分の為に、ということが子供の為に、と方向転換できると意味が生まれてくるような気がします。

 


 

これからの子育てについて
型を自分たちで作る時代になってきている
─ 今後の子育てで大切にしたいことは何ですか?
よう : 子どもたちが大人になるまでに、あなたにはこれが向いているという観察をつぶさに行い、選択肢を導いてあげることが大切だと感じています。三人とも全く個性が違いますから。
 子どもが成長してこれをやりたい、と言い出すのが、わたしたちの親の世代とはまったくちがったタイミングとジャンルになっていくでしょうし、その時の環境がどうなっているかは想像もつきません。なるべく若い頃にいろいろな選択肢を知らせてあげられればと。とりあえず大学行って、その後、漠然と企業に入って、何かやりたいことを見つけるまでじっくり行く、という手法は、これからの社会心理に合わなくなっていくと思います。自分たちの事業への関わりや、周辺に関わっていくという選択肢も、見せてあげられれば嬉しいです。

 


遺影に向かってお祈りの準備をする長女あおちゃん

 

絵本について
お気に入りは、正しい暮らし方読本、おばけのてんぷら、はらぺこあおむし
─ 最後に絵本について教えてください。子どもにどのような絵本を読んで、コミュニケーションをとっていますか?
えみ : 絵本は寝る前に、必ず毎日、私が一冊読んでいますね。三人いるので絵本選びで喧嘩が絶えませんが 笑
長男 ゆうは「五味太郎 正しい暮らし方読本」、次男すずが「おばけのてんぷら」、長女 あおが「はらぺこあおむし」がお気に入りです。

 

 

あとがき

 大江家の子どもたち三人は本当に仲が良くて、とてもバランスが取れているように感じました。兄妹それぞれに個性があり、それをあたたかく見守っている両親の眼が印象的です。長男のゆう君と次男のすず君が男の子っぽい遊びをする中、個人的にびっくりしたのは、まだ二歳にもかかわらず長女のあおちゃんが大人びていたこと。ときには二人のお兄さんをたしなめたりすることもあるそうです。この日もお母さんのえみさんがインタビュー撮影用に服を選んだにも関わらず、お気に入りの服を自分でコーディネートをしました。
 三人の子どもを中心に、彼らを見る両親の二人もまた楽しそうで、その表情、エピソードを聞いて笑ったり、感動したり、帰る頃には、すっかり大江一家のファンになったのでした。

 

[前編はこちら]
>「家族のかたち」シリーズはこちら

 

TEXT : text-textile.com
LAWN : www.instagram.com/lawn_by/
コンテンツクレジット
聞き手 : 佐々木新
写真 : 井手勇貴 www.yukiide.com

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