家族のかたち – 小宮山家 前編

 

 西東京の多摩市永山に住む小宮山夫妻 (小宮山豊さん、小宮山雅子さん) は、二人の息子さんを育て、いまでは緑溢れる静かな環境で穏やかな生活をおくっています。息子さん二人は、すでに成人し、それぞれデザインやクリエティブ業界で活躍する人物。
 そのご両親に今回インタビューする契機になったのは、友人であり、お仕事もご一緒しているご長男の繋がりからでした。その穏やかな人柄と鋭い観察眼、豊かな人間性、もちろんアウトプットする作品の強度に惹かれて、どのようなご両親に育てられたか興味を持ったのです。
 現役子育て中の夫婦にインタビューをすることも学びがあるのですが、子育てを終えて、さまざまな経験や子どもとの関係性の変化を経てきたおふたりだけに、俯瞰的な視点、主観と客観が綺麗に混じり合う、貴重なインタビューとなりました。

 

 


小さな頃から大人まで描き続けた絵
子どもの好奇心を削がずに才能を見守るということ
─ お二人の息子さんは小さな頃どのような性格でしたか?
小宮山豊さん (以下 豊さん) :
長男と次男、真逆と言ってもいいような異なった性格でした。私から見れば、長男は弟がいるのを意識して考えたり行動していたように見えました。長男の特徴としては物事に集中してぐっと入り込む、それに反比例するかのように他のことが疎かになってしまうような子どもでしたね。そのギャップが凄かった。柔道やラグビーなどいろいろ興味を持っていましたが、その中でも絵を描くことが特別好きで、これは今でも変わっていません。
小宮山雅子さん (以下 雅子さん) :
長男は夢中になるとそれがすべてとなる強さがありました。私は母親として、頼もしく思うと同時に、そういう時は周りに気をつけなさいね、ということを伝えていたかと思います。

 
 

 

─ ご長男は大人になった今でも周りへの好奇心が強い方だと思いますが、子ども時分からそうだったのでしょうか?
豊さん :
長男は、小さな頃から好奇心は人一倍強かったです。特に人に対する好奇心が強かったですね。それが幸いして、友人をいとも簡単作ってしまうのです。今日はどこどこに行ってきて友人ができたよ、という話を何度も聞きました。電車の中で声をかけて友人になったり、積極的にコミュニケーションを図っていたようです。
雅子さん :
保育園の先生から、「この子は小宮山家の外交官ですね」と言われたこともありました。どこに行っても知り合いを作って、親の私たちの方が彼を通じて、他の親御さんと繋がっていくような感じでしたね。人が大好きで、小学校の頃は友達とずっと外で遊んでいた印象があります。
豊さん :
長男に対して次男は、あまり自分からコミュニケーションを図るタイプではありませんでした。特徴としては、物事をよく観察し、深く考えて、じっと何かを溜めているような子どもで、あるタイミングが来るとそれらが溢れ出して爆発するような印象です。いろいろなことを百科事典のようにまとめ、引き出しの多い子でした。
雅子さん :
次男は保育園でも周りのことに興味をあるけれども、まずは静かにしていて、動くよりも最初にしっかり観察をしていたようです。その後、面白いと判断すれば迷わず近寄っていくような子どもでした。大好きな先生にくっついて一生懸命おはなしをする人懐こさもありました。

 

 

─ お話しを窺っていると、アプローチこそ違えど最終的にはアウトプットに向けて集中する、ということは似ていますね。好奇心旺盛で長男の場合はまず身体がすぐ動き、次男はまずは観察してからゆっくり動く。
豊さん :
結局、二人とも大人になって美術系の仕事に就くことになるのですが、作風が全然異なるのが面白いのですよね。長男は直観を大切にし、その場でよく観察しながら作品を仕上げていくタイプです。自信を持つきっかけとなった自画像は、自分を鏡に映してじっと観察しながら出来上がった作品です。
次男は溜め込むタイプ。作品に於いても、まず手を動かすというよりは頭の中で想像して描く。たとえば鳥を描くとしたら、羽の形など微細な部分まで何も見ずに描いていく。小さな頃から静観して観察してきたから、きっと情報を溜め込んでいたのだと思います。だからこそ、描き始めると一切何も見ず、頭の中にあるものを描くということができるのかもしれません。頭の中にあるイメージを吐き出していくような。

 

ご長男が子ども時分に描いた自画像

 

─ 子どもたちが絵を描くことになった契機はいったい何だったのでしょうか?
豊さん :
正直、明瞭にはわかりません。私は小さな頃から絵が好きで描いていた時期もありましたが、途中で本格的にはやらなくなりましたし、特別に絵画展などの展覧会に行ったこともなければ、家にも絵画の本はありませんでした。ただ、動機はわかりませんが、近所に画家の先生がいて、小さな頃、長男次男ともそこに通わせたことが影響を与えているかもしれません。
雅子さん :
小さな頃に何かひとつでも芸術系のものをやったら良いなと考えていて、個人的には楽器はどうだろうかと思っていました。けれども気づいたら、すでに絵に興味を持っていたようです。画家の先生もすごく良い方で、それぞれの個性を伸ばすやり方をしていたことも大きかったように思います。ああしなさい、こうしなさい、と言った型にはめるようなタイプではなく、子どもが思うがままに自由に描かさせてくださった。
長男は友人も多かったので、楽しそうな彼の姿を見て、周りの子どもたちも絵画教室に通い出して、結局、子どもたちの遊び場になりました。本当に凄く楽しそうでした。次男も小さい頃から絵は大好きでしたが、それを見て、さらに興味を増したのではないかなと思っています。

 

小宮山家は窓が多く美しく柔らかい光で満ちています

 

子どもが学ぶ楽しい場
子どもへの愛情を言葉にすること
─ 子どもにとって絵を描くことは当然楽しいことですが、同時に友人たちがいるその環境が楽しかった、ということも大きかったのかもしれませんね。
雅子さん :
それはあると思いますよ。絵を学ぶ場所であるのに、絵を全く描かなくなる時期がありました。当然ですよね、そこは親しい友人たちとの遊び場になっていましたから。絵の教室なのに、絵を描くよりも友人たちと遊んでいるようで 笑 変化があったのは長男の絵が入賞した頃からです。少しずつ絵を描くこと、その行為に集中していったようでした。
豊さん :
やはり素晴らしいメンターに出会えたことが大きかったように思います。画家の先生は型にはめるタイプではなくて、子どもたちがどのようなことに心を動かして描くのか、その過程を大切にする方でしたから。楽しむことを優先してくれて、だから少々遊んでいようともあまり口出しはされませんでした。その環境が子どもたちには適していたのかもしれません。

 
 

緑が多い美しい環境に囲まれている

 

─ この永山の環境は本当に素晴らしいですね。萌えるような緑があり、迷路のような曲がりくねった小径があり、美しい人々がいるように感じます。この環境が子どもに与えた影響は大きいのではと思います。ここに家を構えようと決断した契機はありますか?
豊さん :
すべては偶然だったのです。妻と私が結婚する前、ここはふたりの住んでいたちょうど真ん中あたりの土地で特に深い理由はありませんでした。しかし、住み始めたら緑が多くて、暮らす上で素晴らしい環境だということに気づいていきました。ここに集まってくる人々の感性が素晴らしいことも含めて。そう思い始めてからは迷いがありませんでしたね。勤務地の都心まで一時間以上かかっても、子どもたちの学びを考えればそんなことはどうでも良いことでしたので。

 

ニュータウンのシンボルとも言える欅

 

─ 子育てをする上で大切にしていたことは何ですか?
豊さん :
その日暮らしで精一杯でしたね。いつの間にか子どもが大きくなったというのが正直なところです。しかし、頭の隅っこには、将来自分の納得した道を進んで欲しい、自分で決意して欲しいという想いがありました。父親として具体的に何かを薦めるのではなく、どのような形でも子どもが決めた道を手助けしたいと考えていたのです。
もちろん、自分の意向とは異なる場合、何も発言しないということは難しいことですが、なるべく口煩い父親にはなりたくないと思っていました。子どもたちが小さな頃、泣いて訴えても必要以上に反応しないようにも気をつけていたと思います。
雅子さん :
私は仕事をしていましたので、子どもとの時間が圧倒的に足りないと思っていました。保育園から子どもたちが帰ってきたら、やらなければいけないことがいっぱいあります。ですから余裕があまりありませんでした。それでも、一日に一回は、子どもと相対する時間、目を見て接する時間を必ず作ることにしました。とてもシンプルなことです。一緒に漫画を見たり、ゲームをしたり。「あなただけの時間をしっかり作ること」を意識しようと。絶対、母親としてそれだけは死守しようと思っていました。

 

 

─ 子どもと対面する時、愛情を言葉として投げかけたりしましたか?
雅子さん :
伝えていたつもりですが、もっと言葉にすればよかったと今では思っています。昔だったこともあって、時代的に当たり前だったという空気感もどこかにありました。可愛くてたまらないのに、そんなことを言葉にして言う方がおかしいというか、言葉にすると嘘くさいというか。でも、もっとしっかり言葉にして伝えれば良かったと思います。今、子育てをしている人には、絶対いっぱい子供に言ってあげて欲しいですね。あなたは大切な人なんだ、ということを伝えて欲しい。
ずっと前に調べたことですが、「親が子に十分愛情与えているか」、「子が親から愛情をもらっているか」というアンケートをとったのですが、この回答は親が90パーセント以上、子が55パーセントくらいの「YES」だったらしいのです。アンケートだけを見る限り、意外に子どもには伝わっていないのだと思います。

 

 

─ 親としては嬉しい瞬間はどのようなことでしたか?
雅子さん :
今でも真っ先に思い浮かべるのは、初めて寝返りをうてた時のとびきり嬉しそうな笑顔です。子供の自分で生きる力はとても素晴らしいものです。親として私の役割はその子どもの成長を助けるということ。ですから、子どもが何かを達成した時の顔を見るのが幸せな瞬間でした。例えば、寝返りを初めてうった時、立った時、自転車に乗れた時。何度も何度も繰り返して、もがいて、ある日、それが叶った時の顔ほど親として幸せな瞬間はありません。子どもの達成感は本当に嬉しいのです。
考えてみると、子どもは強制されなくとも自分でやろうとするもの。ある時期、自分にとっては不本意な時があっても、子どもは乗り越えようとしているんだ、と親は見守ってあげなければいけないと思います。

 

 
 

後編に続く
>「家族のかたち」シリーズはこちら

 

コンテンツクレジット
聞き手 : 佐々木新
写真 : 井手勇貴 www.yukiide.com

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