家族のかたち – 東家 後編

 

 東さん一家は、陵史さん、瑠里香さん、詩季ちゃんの三人家族。東京都文京区の風通しが良い街で暮らしています。私たちが訪れた時は土曜日だったということもあり、小さな子どもたちが集まって遊んでいました。同世代で子育てをされている方も近所には多いのだそうです。
 インタビューをさせていただくきっかけとなったのは、私たち mewl magazine のコンテンツ「short story」でも絵を描いてくださっている、emi ueoka さんのインスタグラムで、瑠里香さんの本『それでも、母になる: 生理のない私に子どもができて考えた家族のこと』を発見したこと。その頃、私たちはちょうどこのインタビューシリーズ「家族のかたち」をスタートさせたばかりで、家族について見識を深めようと考えていた時期でした。早速購入し、読了した後、何か透明な力で自分が肯定されたような心持ちになり、ブックレビューを書いたことによって、瑠里香さんからメッセージをいただき、それ以来、いつか直接お話を聴くタイミングを窺っていました。
 上梓された本からとても柔らかくて強いという印象を持っていましたが、直接お会いして、ご家族と話す内に、その柔らかさや強さを体感するとともに、それらがどのようにして生み出されてくるのか、僅かながら感じ取れたような気がします。家族のことを大切にしながらも自分のやりたいことを諦めない。東京の核家族だからこそオープンにして、周囲の人たちと協力し合いながら子育てや仕事を楽しんでいく。田舎で形成されるような緊密なコミュニティを都会でも新しい形として築いていく。私たちが東京から盛岡に移住して、子育てをする中で見る景色とはまた異なった、新しい家族のかたちを東家に見たように思います。

 

 

周りを巻き込むコミュニテイのかたち
田舎での密な関係性をオルタナティブに都会で築いていく
─ 瑠里香さんは「家族のために我慢したり犠牲になるのではなく、やりたいことに巻き込む」というスタンスで育てられたとお聞きしましたが、現在の東家でも同じようなスタンスで子育てや仕事をしているのですか?
瑠里香さん :
娘が生まれてから2年間くらいは子育てと仕事に追われる日々だったので、自分のやりたいことはあまりできませんでした。ただ、子どもの命を守ることが最優先にあって、娘が圧倒的に可愛くて、今もそれは変わりないのですが、とにかく必死だったので、自分にあまり目が向いていませんでした。変化が現れたのは、ある程度落ち着いてきてからですね。「夫は子どもが生まれる前後で仕事の仕方など何も変わっていないのに、どうして私だけが、、、」ということが頭にもたげてくることがありました。どうしても不満が夫の方に向いてしまうのです。
それでも、私はフリーランサーとして働いているので、自分が好きな人と一緒に仕事をするようにしたり、映画を観に行ったり本を読んだり、気のおけない友人とごはんを食べたり、自分の好きなことに目を向け始めてようやく夫に対する不満のような感覚も無くなっていきました。ほんのささいなことでもできる範囲で自分を満たすようになってから、夫に対して、「ああして、こうして」という気持ちも減っていったように思います。

 

 

─ 陵史さんはどのように感じられていたのですか。子どもが生まれてから我慢したりすることはありましたか。
陵史さん:
仕事に対するスタンスは全く変わらないとうか、できないと言った方が近いでしょうか。もちろん、できることは変えて行こうとは思うのですが─
瑠里香さん:
私たち夫婦は、家族が大切で好きだけれども、仕事も同様に好きで誇りを持っています。自分たちが一生懸命、楽しみながら仕事に向き合っている姿は、結果的に娘にとっても良いことではないかと思っています。

 

 

─ 夫婦それぞれが好きなことに巻き込んでいくようなスタイルも東家の特徴のような気がしますが。
瑠里香さん:
結婚した最初の頃、夫が私に合う人がいるからと言って会社の同僚を家に連れてきました。夫曰く、私と好きなものが似ているから合うのではないかと。本当にその通りで、会って数分で意気投合して、毎週一度は遊ぶくらいの友人になりました。夫は出張が多くて、家を空けていることも多いのですが、いまではその友人が会社の状況や夫のスケジュールを教えてくれることもあります 笑 夫の上司の家に泊まらせてもらったこともあり、家族ぐるみで夫の会社の人たちと仲良くしてもらってますね。
陵史さん:
実家が遠いことや、結婚した当初は出張で家を空けることも多かったので、これはチームで戦うしかないなと考えて、妻に同僚を紹介しました。そうしておけば、何かあった時に協力してもらえるかなと。その結果、僕が居なくても、妻は会社の同僚たちと遊ぶようになったし、僕が居ない社員旅行にも妻と娘ふたりで参加したこともあります 笑
僕らが生まれ育った田舎のように、無理やりでも人をくっつけるパワーのある人が近くにいれば良いのですが、居ない場合はこのようなスタイルの繋がりがあっても良いのかもしれないと思ったのです。その為には、家族をオープンにして、関係性を深めていく方が合理的だなと。

 

陵史さんが趣味で書いている絵

 

─ お二人とも田舎で育ったとお聴きしましたが、その環境が大きな影響を与えているのですね。
瑠里香さん:
夫婦ともに地縁の繋がりが濃いところで育ちました。だから、親族だけでなく、近所に頼れる人が多くいたという環境がいまの私たちに大きな影響を与えていると思います。親族だけでなくて、近所の人、みんなに育てられた感覚が強い。
夫婦ともにそのような環境が子育てには良いと思っているので、実家から離れた東京でも、それに近しい環境を作っていきたい、ということは意識しています。だから仲間になってくれそうな人なら、とりあえず家に呼んじゃおうと。
陵史さん:
結果的に、血の繋がりだけではない面白い繋がりができているような気がします。たまに名前しかわからない人たちもいたりしますが、それも多様性のひとつとして面白いかなと。僕も幼少の頃は親戚でもない近所の人の家に泊まりに行ったりしていたので、娘も同じような環境で育って欲しいという想いがあります。

 

 

─ 私たち夫婦は、いろいろ考えた挙句、東京ではなく、故郷である盛岡で子育てをするという選択をしたのですが、お二人のようなコミュニティの築き方を知っていたら、もしかしたら都内での子育てを選んだかもしれません。
瑠里香さん:
私たちも祖父母をはじめ私たち親以外もみんなで育てる環境がすでにある実家へ戻るという選択肢も検討したのですが、やっぱりいまお互いがやりたい仕事をやるには東京を離れることはできなくて。
子どもに多様な価値観に触れられる環境を整えてあげたい、でも、お互いの好きなことは諦めない。その両者を叶えたいからこそ、このようなコミュニティのようなものが生まれてきたように思います。
陵史さん:
妻はオープンマインドですぐ友人を作れるタイプ、僕は合理的なタイプ。二人の特性を考慮した上で、やりたいことと、どうやったらできるかを深めていくと必然的にこのような答えになった、ということなのかもしれません。

 

 

─ 田舎での密な関係性を都会でオルタナティブに築いていく、というのはまさに固定概念を崩すようで気持ちよいですね。
瑠里香さん:
私は仕事としても多様な価値観の人に話を聞いて、自分の固定観念に気づき、崩していけることに面白さを感じています。夫は固定観念に囚われていなくて、そもそもというところから考えられる人だから成り立っているのかもしれませんね。お互い固定概念の外側にあるものを選びやすい傾向にあるのだと思います。

 

 

家族は拠り所になる場所
いつでも戻れるような場所にしていきたい
─ 夫婦としてお互いを尊重し信頼しているように感じます。お二人はそれぞれ、または家族をどのような存在・場所だと思っていますか。
瑠里香さん:
以前、小児科医の熊谷晋一郎さんに取材をして、「自立とは、”依存”できる場所を増やすこと」だと聞いた時に、私にとって家族は、いちばん「依存できる場所」だと気づきました。良い意味で「頼り、頼られる場所」であり、何かあった時には戻れる場所。娘にとってもそうした拠り所になれたら、と思っています。
陵史さん:
妻は人生を豊かにしてくれる人ですね 笑 娘にとっては、親っぽい親というよりも友人みたいな存在になっていけたらと思っています。

 

 

─ 私たち mewl では、物語世界をとても大切にしています。他者を想像すること、自分以外の並行世界を尊重すること、物語を通じて、子どもたちに様々な世界や人に触れて欲しいと思っています。お二人が心に残っている、好きな絵本、物語はありますか。また、詩季ちゃんが好きな物語があれば教えてください。
瑠里香さん:
好きな絵本や物語はたくさんありますが、強いて選ぶとしたら、娘の名前に込めた想いを伝えるものとして初めて贈った絵本「ぐりとぐらのうたうた12つき」です。ぐりとぐらのふたりが季節を楽しむ様子が描かれていて、「詩うように巡る季節を楽しんで、豊かな人生を送ってほしい」という娘の名前に込めた思いと重なります。あと、最近、娘もお気に入りで一緒によく読んでいる、きくちちきさんの絵本「しろねこくろねこ」も好きです。しろとくろ、違うふたりが一緒に生きていくことのいとおしさが描かれた物語です。
陵史さん:
僕は、やなせたかしがいちばんはじめに描いた「あんぱんまん」ですかね。僕が初めて娘に贈った絵本でもあり、娘が初めて選んだ絵本でもあるので。
娘のいまの一番のお気に入りは、柿木原政広「ぽんちんぱん」のようです。

 

 

─ これから先の未来、どのような家族を目指していきたいですか。またどのような予定がありますか。
陵史さん:
長い先の未来のことはあまり考えていません。2~3年くらいの短い目標を、合理的に、かつ柔らかく決めていけたら、良い家族のかたちが見えてくるのではないかと思っています。
瑠里香さん:
何か大きなことは現時点では決めていないのですが、家族として、夫婦として、個人として、自分たちがどうしたいか、ふたりでよく話すようにしています。自分たちだけに閉じないで、家族以外の人たちとも関係性を築きながら、お互いがやりたいことを諦めない。その時の状況に合わせて、都度選んでいけたら私たちなりの家族のかたちが見えてくるように思います。

 

 

[前編はこちら]

 

 

聞き手 : 佐々木新 aratasasaki.com
写真 : 井手勇貴 www.yukiide.com
>「家族のかたち」シリーズはこちら

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