家族のかたち – 東家 前編



 

 東さん一家は、陵史さん、瑠里香さん、詩季ちゃんの三人家族。東京都文京区の風通しが良い街で暮らしています。私たちが訪れた時は土曜日だったということもあり、小さな子どもたちが集まって遊んでいました。同世代で子育てをされている方も近所には多いのだそうです。
 インタビューをさせていただくきっかけとなったのは、私たち mewl magazine のコンテンツ「short story」でも絵を描いてくださっている、emi ueoka さんのインスタグラムで、瑠里香さんの本『それでも、母になる: 生理のない私に子どもができて考えた家族のこと』を発見したこと。その頃、私たちはちょうどこのインタビューシリーズ「家族のかたち」をスタートさせたばかりで、家族について見識を深めようと考えていた時期でした。早速購入し、読了した後、何か透明な力で自分が肯定されたような心持ちになり、ブックレビューを書いたことによって、瑠里香さんからメッセージをいただき、それ以来、いつか直接お話を聴くタイミングを窺っていました。
 上梓された本からとても柔らかくて強いという印象を持っていましたが、直接お会いして、ご家族と話す内に、その柔らかさや強さを体感するとともに、それらがどのようにして生み出されてくるのか、僅かながら感じ取れたような気がします。家族のことを大切にしながらも自分のやりたいことを諦めない。東京の核家族だからこそオープンにして、周囲の人たちと協力し合いながら子育てや仕事を楽しんでいく。田舎で形成されるような緊密なコミュニティを都会でも新しい形として築いていく。私たちが東京から盛岡に移住して、子育てをする中で見る景色とはまた異なった、新しい家族のかたちを東家に見たように思います。

 

 

不妊症のこと、妊娠のこと
オープンにしたことで変化したもの
─ 上梓された本『それでも、母になる: 生理のない私に子どもができて考えた家族のこと』を読んで、ご自身やご家族についてとてもオープンな印象を受けました。日本では特に、家族のことをクローズドにしがちな傾向にあると思いますが、オープンにしていくきっかけは何だったのでしょうか。
瑠里香さん :
私は生まれつき、満18歳になっても生理がなく、「原発性無月経」という不妊症を診断されました。その事は、親族や親しい友人たちには伝えていたものの、自ら率先して誰かに話すような内容ではないかなとずっと考えていました。気持ちが変化したのは、夫がオープンにすることを薦めてくれたから。
妊娠がわかった時の私は、自分の身に起こったことの衝動を抑えきれず勢いで文章にしたのですが、表に出して良いものかもわからず迷っていました。妊娠を継続する為の「黄体ホルモン」が私の場合少なく、もしかしたら流産してしまうかもしれないという気持ちもありました。しかし、「それも人生の一部だし、受け容れて、そこから学んだことを書いていけばいいのでは」という夫の言葉もあって、ハフィントンポストに、自分の不妊症のこと、それでも妊娠したことについて投稿しました。
─「原発性無月経」のこと、それでも妊娠したことをオープンにして、何か変化はありましたか。
瑠里香さん :
間接的に誰かを傷つけてしまうことがないか、不安もあったのですが、直接的に批判の声が私たちの元に届くことはありませんでした。変化があったのは、周りの人たちが内に秘めて抱えていることや家族の事情をよく話してくれるようになったことです。「わたしも不妊治療してたよ」とか、どこか腫れ物に触るような感覚があった話題がとても話やすくなりました。私自身もオープンにする前は、何となく一人で抱えていたような感覚があったので、精神的にも開放されたような気がします。

 



 

─ 陵史さんはどのような想いでオープンにしたらと言ったのでしょう?
陵史さん:
よく覚えていないのですが 笑
そもそも隠す意味があるのかなと考えていたのだと思います。いまは個人が社会に向けて包み隠さずオープンに発信していく時代で、本人が発信したいという想いがあるならばやらない手はないなと。
瑠里香さん:
私は書くことを仕事にしていて、多様な「家族のかたち」もテーマのひとつ。模索しながら築いている自分たちの家族のことも書くこともあるのですが、夫は書かれて嫌がるということが一切ないんですよ。「周りにどう思われるのか、どういう評価を受けているのか」ということに全く興味がない 笑
陵史さん:
何を嫌がることがあるのか、よくわからなくて 笑
僕自身、オープンにすることには全く抵抗感がないし、妻は書いて発信していく仕事だから、真実であるならばどんどん書いていけば良いと思うのです。

 

 

─ 家族のことをオープンにしていくのは、お二人の性格に依るところも大きいのかもしれませんね。
瑠里香さん:
元々の性格だと思うのですが、夫はどこにいてもテンションが常に一定な人です。そして、相対的な評価にあまりとらわれない人なので、私から見たら本当に珍しい人。私の実家に初めて訪れた時も、リビングで寝入ったり、私の同窓会について来てその中で仕事をしたり 笑 決して我がままなタイプではないのですが、人を不快にしない「ザ・マイペース」人間です。だからこそ、オープンにしていけたのだと思います。

 


 

ハプニングをネタに
失敗を家族が笑いに変えてくれる
─ お話を聴いていると、瑠里香さんが感情表現豊かなタイプ、陵史さんは感情が常に一定なタイプ、夫婦でちょうど凸凹が組み合わさったような印象を受けます。
瑠里香さん:
お互い足りないものを補いあっているような感覚はあるかもしれませんね。私は感情の起伏が結構ある方で、揺れがあった時には誰かに話したいタイプ。だから夫がいることで凄く助かっています。気持ちが落ちていても、夫は相変わらずマイペースで、淡々と話を聴いてくれるので、家族内でのバランスは自然に整えられていく。だから、遠慮なく、本当に何でも話すことができます。

 

 

─ 陵史さんは瑠里香さんの感情の揺れに対してどのように感じているのでしょう?
陵史さん:
人生豊かそうだなと思っています 笑
周囲でいろんなことが巻き起こって、とても楽しそう。ネタの宝庫というか、本当にいろいろと持っている人だなと。

 

 

─ 例えばどのようなことが起こるのですか?
陵史さん:
海外旅行を予定していたのですが、前日に妻がパスポートを確認したら期限が切れていたということがありました 笑
瑠里香さん:
私のせいで海外旅行に行けなくなってしまい、本当なら責められてもおかしくないのですが、夫と娘は揃って笑ってくれました。反対に一番ショックを受けていたのは私で、正直泣きそうになっていたのですが、娘には慰められ、その間、夫は淡々と旅行のキャンセルをするという 笑 その時は、本当にこの人たちと一緒で良かったなと思いましたよ。
私と夫が逆の立場だったら (夫のパスポートだけ期限切れだったら)、もしかしたら夫を置いて、娘と一緒に行っていたかもしれない 笑 とにかく一緒に気持ちが沈んでしまうような人ではなくて、本当に良かったです。
陵史さん:
僕はこうした妻の周りで起こるハプニングを楽しんでいるのだと思います。引き寄せる力がとても強いので、興味深い人だなと 笑

 

 

─ 一般的に見れば、おそらく失敗とか、残念なこととか、悲しいこととして捉えてしまいがちですが、東家のみんなの手にかかると、楽しいことに変換されますね 笑
瑠里香さん:
ネタにして、書くことで前を向いていけるような気がします 笑
何より家族が、私がしでかしたことや自分の弱いところを受け止めて、笑いに変えてくれることに救われています。

 



 

─ 夫婦であまり喧嘩にならなさそうな印象を受けますが、それでも喧嘩はありますか?
瑠里香さん:
あまりないですね。私は平和主義的なところがあって、姉妹喧嘩もしないし、他人と争うことを避けたいタイプ。小さな頃も気の強い女の子の間に入ってしまうような子どもでした。
夫は争いを避けるというよりも、達観しているような、そもそも怒らないタイプ。人生においてもあまり怒ることを見たことはありません。
陵史さん:
苛立つことはあっても怒ることはないですね。仕事では淡々と圧がかかっているらしいですけれども 笑
瑠里香さん:
家族の中ではそのような圧を感じたことはありません。私の方から何か言うことはあっても、そこで夫が強く反発して言い返すようなことにはならないので喧嘩に至らない。私がミスをしても、夫は受け止めて、笑ってくれるので、きっと喧嘩にならないのだと思います。

 

 

実家から遠い、都会の核家族だからこそ
「頼る、頼られる」の関係性を築く
─ 上梓された本『それでも、母になる: 生理のない私に子どもができて考えた家族のこと』では、周囲の友人・知人の家族について書かれていますが、とても人の繋がりを大切にしている印象を受けました。自身のことや家族のことをオープンにしていくにあたって、周りの方のサポートも大きいように感じます。お二人が、人と接するとき意識していることがあれば教えてください。
─瑠里香さん:
家族だけでクローズドしないようにしています。もちろん、休日、三人で過ごすこともありますが、友人を招いたり、遊びに行ったりすることが多いですね。娘にも私たち親だけでなく、いろんな人に関わって欲しいと思っているので、包み隠さず友人たちとは接しています。
そして、自分や家族のことをオープンにすることと同時に、「頼ってしまう」ということも意識していることです。私たち夫婦はどちらも実家から遠いこともあって、どうしても親族に頼ることができません。だから、保育園でできた友人に「もしよかったらこの日娘を預かってもらえない?」と相談してお願いしたりします。そうすると、相手も頼りやすくなるのではないかなと。

 

 

─ 「頼る、頼られる」という補完関係を築いておくのは、子育てにおいてとても大切かもしれませんね。
瑠里香さん:
特に実家から遠い核家族は同じような課題を抱えていることが結構あると思っています。ゆるやかなつながりのなかで、いざという時に、「頼る、頼られる」という関係性があれば本当に助かりますよね。

 

 
 

[後編はこちら]

 

 

聞き手 : 佐々木新 aratasasaki.com
写真 : 井手勇貴 www.yukiide.com
>「家族のかたち」シリーズはこちら

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