「それでも、母になる : 生理のない私に子どもができて考えた家族のこと」

 「それでも、母になる ─ 生理のない私に子どもができて考えた家族のこと」は、ポプラ社から出版されている、徳瑠里香さんの本です。繊細でありながら力強い母を表現しているかのような本のデザインは、NIGHの大原健一郎さん、そして、装画は私たちのマガジンでもお世話になっている Emi Ueoka さん。
 本書を知ったのは、Emi Ueoka さんのインスタグラムの投稿でした。その「間」を意識したデザインに惹かれたことと、ちょうど私自身が子どもと家族のかたちについて探求したいと考えていたので、すぐにで購入しました。結論から先にお伝えしますが、本書によって大きく心が動かされました。血が通った文体、私情に流されない客観性、許容性、テーマ。著者の人柄が本書では明確に伝わってきます。
 著者である、徳瑠里香さんは女性の選択と家族のかたちを主なテーマに執筆を続けている方です。そして、生まれてから18歳の誕生日を超えても、一度も月経を経験しない「原発性無月経」と診断され、それでも29歳になる頃、奇跡的に子ども宿した母親でもあります。本書は、そのような徳瑠里香さんご自身の子どもや家族、そして、これまでの人生で出会ったさまざまな友人や知り合いの家族について書かれています。
 登場する家族は、実に多様です。16歳で妊娠、高校生で母親になった女性、大切な人の死を通じて血は繋がっていないけれども心の家族がいる女性、子宮がなく子どもを持たないという選択をした夫婦、女性から男性になった方、実子がいても里親として子どもを育てる逞しい女性など、それぞれが置かれた境遇は実にばらばらで、身体的にも、状況的にも同じ家族はいません。しかし、どの家族も悩み、迷いながら、前を向いて決断してきたということは共通しているように思います。
 文体は柔らかく、とても読みやすいです。約3時間ほどで読んだ後、私が感じたのは、ポジティブで透明な力が内から泉のように溢れて、強い肯定感のようなものに満たされたということ。自分を育ててくれた両親との関わりや、これから築き上げていく家族の関係性をあらためて捉え直し、辛いことがあってもまた向き合っていけばいい、そのようなメッセージを受け取りました。こうしなければいけないというよりも、そっと背中を押してくれるような。
 そのような肯定感を感じたのは、おそらく私自身、妻が妊娠をしたとき、その命を摘むのか、産むのか、という選択を迫られる期間があり、結果、夫婦で産むことを選択したことも大きかったと思います。本書を通じて、それが間違いではなかったという、柔らかく優しいメッセージを受け取ったような気がしています。
 また、本書が素晴らしいのは、子どもを持たない家族や、血の繋がっていない家族にも、しっかり光をあてていること。そこには徳瑠里香さんのあたたかい視点が常にそそがれています。「普通」や「正しい」家族なんていない。相対的な視点から「普通」の家族や「正しい」家族なんてものは導き出せない、という力強いメッセージ。そして、家族の為に自分を犠牲にするのではなく、しっかり「個」を大切に生きて欲しいというメッセージも。
 最初、本書のタイトルを目にした時は、子どもを持つ家族にしか薦められない本かもしれないと思ったのですが、それは大きな間違いでした。「それでも、母になる ─ 生理のない私に子どもができて考えた家族のこと」は、確かに子どもがひとつのテーマに紐づけられていますが、多様な家族の在り方、その苦しみや喜びの物語を通じて、「他者を知る」ということの意味を柔らかく、それでも心に強く留まるかたちで投げかけています。
 子どもができなくて悩んでいる人や、夫婦の関係性に行き詰まった人、父や母と意思疎通がうまくとれなくなった人、セクシャリティで悩んでいる人へ。そっと手を差し伸べるような形で多くの読者の琴線に触れるだろう、という強い確信があります。ぜひ、手にとって欲しい本です。
(文 佐々木新)

 
 

「それでも、母になる : 生理のない私に子どもができて考えた家族のこと」
著者 | 徳瑠里香
デザイン | 大原健一郎 (NIGH)
装画 | Emi Ueoka
www.amazon.co.jp/dp/4591163628

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