きみののぞみはなんですか?

 我が子の成長を見ていると、人間のはじまりというのは実に自己中心的であるなと感じます。仕方がないことなのですが、周囲に迷惑だったとしても、まず自分の快適さを求め、不快さを排除するように動く。親や他人の苦労や気遣いというものは当然ながらまだありません。私自身も幼い頃は同じように周りの大人たちに迷惑をかけていたのだと想像すると、気恥ずかしさと共に見守ってくれた両親や祖父母、先生には頭が上がらない想いが湧きあがってきます。
 では、いったいいくつくらいから他者の気持ちに共感し、相手を慮ることができるのか。学生の頃に習っていた、心理学 (発達心理学) の本を引っ張り出して読んでみると、5、6歳頃から他者への共感能力が目に見えてあらわれてくるそうです。確かに、私も幼稚園に通っていた頃には、友人の家庭環境や置かれた状況に対する憐憫を感じていたような気がします。
 共感という観点から見て、私が両親から育てられた中で記憶に残っているのが、動物やモノ、いわゆる人間が扱う言葉を話さない生物/非生物がもし人間の言葉を話すならどのようなことを口にするだろうか、という絵本をいくつか読んでもらったことです。
 もちろん、私以外の人間の心を想像することも大切だと思いますが、動物やモノの気持ちを想像することの方が小さな頃の私にはやりやすかった記憶があります (特に動物が好きだったので)。きっと幼い私には、そのような対象の方がより身近に感じたものであり、想像しやすかったのでしょう。いわゆる擬人化することで、他者の心を想像する訓練をしていたのかもしれません。
 今回ご紹介する、五味太郎さんの『きみののぞみはなんですか?』は、まさに他者の心を想像してみるという絵本です。想像するのは、題名となっている「きみののぞみはなんですか?」。シンプルですが、結構難しい。というのも、人間ではなく、ぞう、テレビ、つくえ、トラック、がいこつへの問いかけだから。もちろん、答えは一つではなく、たくさんあると思いますが、五味太郎さんが考えるそれらの答えが実にユニークです。
 大人になると、他者である人間の心の機微には敏感になりますが、子どもの頃には確かに存在していた動物やモノへの共感力が薄れていきます (つまり、擬人化をしなくなり、明瞭に人間とそれらを分けてしまう)。しかし、『きみののぞみはなんですか?』を読むと、幼少期の視点が少し戻ってくるような感覚があります。動物やモノから見たこの世界はどのようなものであるのか。人間が当たり前に行っていることに疑問符を投げかけるような視点。これは本当に大切なものとは何か、というような本質を見抜く視点を立ち上がらせるようなものでもあると思います。
 五味太郎さんはそのような哲学的な問いかけをユーモアを通じて投げかけてきます。まさに「アートと哲学とユーモア」が混じり合った、年齢に縛られない (大人も子どもも楽しめる) 五味太郎さんらしい絵本。ぜひ子どもと一緒に読んでください。
(書評文 | mewl 佐々木新)

 
 

きみののぞみはなんですか?
著者 | 五味太郎
出版 | アノニマスタジオ

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