たいふうがくる

『たいふうがくる』は、BL出版から出された、みやこしあきこさんの絵本です。
 みやこしあきこさんの作品は、『ぼくのたび(Youtubeにメイキングムービーがあがっています)』や『もりのおくのおちゃかいへ』など、主に寓話的な作品で知られている作家さんです。ご本人は、”ファンタジーだからこそリアリティのある絵を描く”、ということを大切にされており、個人的には、彼女の作家性とも言える、リトグラフを使用した繊細な表現が好きです。
 幻想的な印象のある、みやこしあきこさんの作品のなかで、もしかしたらもこの『たいふうがくる』は、かなり現実味を帯びた作品かもしれません。モノクロで描かれた本書は、色鮮やかさを抜き取ることで、光と影のコントラストが明瞭に出ており、その手法が物語の展開に非常にマッチしています。たいふうが訪れた時の、男の子の不安な心情や、過ぎ去った後の清々しい青空に至るまで、モノクロとして描かれた意味が、物語の起伏に実に巧みに活かされています。読み終えて、文学的、あるいは芸術性が高いと感じたのはきっとこうした表現と構成が必然として見事に織りなされているからだと思いました。
 また、絵と言葉のバランスが巧みで、物語に没入することができることも特長です。おそらく、絵の構図や細やかな描写が非常にうまいので、どのくらい強い風や雨がきているのか、という状況が理解しやすく、このことが最低限の言葉数(余計な状況説明がない)の表現につながっていると思います。さまざまな絵本があるので一概には言えませんが、個人的には、絵本という表現として、絵の力で物語を引っ張っていく、このバランス感は理想的です。
 没入感が強かったせいか、読み終えた後には、小さな頃、家でたいふうが過ぎるのを、恐怖と不安だけでなく、どこか胸踊るような高揚感も混ざる、ないまぜの心持ちで待っていたのを思い出しました。また、本書の主人公が夢を見たように、私もたいふうがくるような特別な夜は、不思議な夢をみたりしたことも。子どもというのは、本当に繊細で、天候や環境の変化に大きく左右されるのだなとあらためて、そうした感覚を呼び覚まされたような気がします。
 子どもの感情の機微を上手に掬い取っている作品だと思いますので、子どもだけでなく、大人の方にも読んでいただきたいです。

『たいふうがくる』
みやこし あきこ
出版社 | BL出版
サイズ | 26cm/32p

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