木がずらり

 心理学の勉強をしていた学生の頃、木を描くことでその人間の内面を観察するという「バウムテスト」というものが好きだった記憶があります。根、幹、枝、冠、葉など木には、人間の身体のアナロジーともいえる部位があって、それを描くことで言葉で表現しにくい内面の気持ちや、深層心理を推察するのだと教わりました。
 もちろん、この「バウムテスト」の解釈は捉え方がたくさんあるので、その答えは絶対的ではないのですが(複数の他の心理テストなどによって総合的に判断していく)、個人的に幼い頃から「木」は身近に存在していたものですし、話すことが苦手だった私にとって、それはどこか腑に落ちるものでした。
 当時教わった先生曰く、私たち人間はこの惑星で長い間、木と共生関係にあり、古くから培われてきた共通のイメージ(生命、特に大地の象徴だったり、安らぎだったり、畏敬する存在など)を共有しながらも、それぞれが異なるの樹々との出会いを経験しているので(例えば、国や地域によって生育された木々は異なりますし、絵本に出てくる印象的な木との出会いも異なります)、その人間が心に思い浮かべる木の形にも微妙な個性が現れるのだとか。共通イメージがありながらも差異が明瞭であることが重要で、それによって様々な心のありようが透けて見えてくる。
 今回ご紹介する、tupera tupera 作の「木がずらり」は、シンプルにさまざまな木の種類を楽しむだけでなく、色彩豊かな人の心を投影した作品としても見ることができます。本来の自然科学ではありえない色彩や形ですが(バウムテストでは精確な木を描く必要はない)、これらの木を描いた人がどのような感情や心のありようだったのか想像しながら読むと、実に想像が膨らむような構成になっています。ずらりと並ぶ全24の木の風景はひとつひとつが個性的で、かわいらしく、やさしいのです。こんもち かっちり きっちり とんがり そっくり うっとり ほんのり ぱちり。そのような擬音がぴったりな木たち。眺めているだけで心が弾んだり、穏やかになったり。
 また、縦長の蛇腹形式の本ですので、開いておけばインテリアとしても良いかもしれません。出版数が少ないようで入手が難しいのですが、見かけましたらぜひ手にとってほしい絵本です。ちなみにブルーノ・ムナーリの「木を描こう」という本も、心を覗き見る(自分の内面を知る)上でお薦めしたい一冊です。
(文 佐々木新)

 
 

tupera tupera「木がずらり」
定価 1,540円(本体1,400円+税)
280×125mm 28P 経文折製本・ケース入り
ISBN 978-4-89309-506-0 C0771
発行年月 2011/2
www.tupera-tupera.com

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