親子の手帖

 大学院在学中に中学生40名を集めて学習塾を開業し、その後、唐人町寺子屋塾長として教室で150名超の小中高の生徒を指導してきた鳥羽和久さんの著書『親子の手帖』。
 本書は、親と子の幸せを見つけるための教科書とも言えるような本です。特に、子どもが学校に通い出し、思春期に差し掛かる頃、受験や学力と差別、不登校、いじめなどで苦しむ子どもを持つ親御さんにお薦めしたいです。本書に登場する親子はフィクションなのですが、私はどこかしら胸がちくりと痛むような感覚になりました。読む人によっては、親として子どもにしてしまったことに対する罪悪感がくっきり浮かび上がり、とても鋭い痛みになってしまうかもしれません。しかし、本書はそのような痛みに対して、優しく寄り添ってくれます。
 文体はとても柔らかく、かつ、静かな熱を持っています。決して具体的な解決法が提示される訳ではないのですが、読後には自身の内に力が湧いてくるのを感じることができると思います。きっと、親として(あるいは子ども時分の私の)未熟な自分を肯定し、後押ししてくれるような力がこの本には詰まっているのでしょう。
 個人的に興味を抱いたのは「学力と差別の問題」や「なぜ偏差値の高い学校を目指すのか」、「苦しむ子どもたちと、そのとき大人ができること」などの章です。私が学生の頃、思い悩んだ学力至上主義に対する疑問などが再び浮かび上がってくるようでした。
 また、第一章のタイトル「私の不安を知ることで、子育ては変わる」とあるように、子育ての問題は、子ども当人ではなく、大人である私たち自身にあるということ、親の不安は子に伝播するということもあらためて考えさせられました。これは以前ご紹介した佐々木正美さんの本『子どもの心の育て方』にも共通する内容ですが、子どもと共に親も成長していくということを再び認識し直す契機となりました(知識や体験が子どもよりも多いだけに上から目線となり、親である自分の学びを疎かにしてしまう)。おそらく著者である鳥羽和久さんは、この想いを本書の通底するメッセージとして掲げているのではないかと思います。”子育ての手帖”ではなく、”親子の手帖”というタイトルにしたのは、きっとそういうことなのではないかと。
 また、本書は子育てだけでなく、夫婦関係、幻想の共同体、スペクトラム化する社会、障害者問題など、教育に関わる現代のさまざまな課題も取り上げていて子どもがいない多くの大人にもお薦めしたいです。特に、子供時代に苦しかった記憶がある人には、過去の自分を肯定するような透明な力を得ることができると思います。
目次の内容がわかやすいと思いますので、ご興味ある方はご参考にしてください。

 
 

第1章 私の不安を知ることで、子育ては変わる
1 親の不安は子に伝播する
2 親の言うことを聞かない子ども
3 子どもの叱り方
4 管理される子どもたち
5 全部、僕のせいなの?
6 放っておけない親
第2章 親はこうして、子をコントロールする
1 成功体験は危ない⁉
2 ある母と娘との電話
3 親はこうして子をコントロールする
4 カンニングをする子どもたち
5 幻想の共同体、母と娘
6 記念受験の虚実
7 なぜ偏差値の高い学校を目指すのか
8 小中学受験と親
9 葛藤との向き合い方
10 受験直前の子どもとの付き合い方
第3章 苦しむ子どもたちと、そのとき大人ができること
1 学力と差別の問題
2 身近になった障害
3 「勉強ができない」と下を向かなくてもいい
4 LD(学習障害)の子どもの将来
5 発達障害の子どもと夫婦の問題
6 良い父親
7 良い母親
8 家庭でも学校でもない、第三の居場所の必要性
9 子どものいじめと大人の接し方
第4章 子どもの未来のために
1 大人になるということ
2 子育てに熱中すること、子育てから逃避すること
3 理解のある親と子どもの精神
4 親にとって子育てとは

 
 

親子の手帖
著者 | 鳥羽和久
出版社 | 鳥影社
単行本 | 208ページ

鳥羽和久
1976年、福岡県生まれ。学位は文学修士(日本文学・精神分析)。
大学院在学中に中学生40名を集めて学習塾を開業。
現在、㈱寺子屋ネット福岡代表取締役、唐人町寺子屋塾長、及び日本航空高校唐人町校校長。教室で150名超の小中高の生徒を指導する傍ら、とらきつね(文具・食品・雑貨)の運営や各種イベントの企画、独自商品の開発、地域活性化プロジェクト等に携わる。
唐人町寺子屋 公式サイト tojinmachiterakoya.com
著書に『旅をする理由』(啄木鳥社)。

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