すてきな三にんぐみ

 人や物や場所と同じように、世界に無数にある中で特別な出会いというものがあるのが絵本だと思います。偶然が重なって想い入れが深い一冊になる。幸運にも私は特別な出会いに溢れた絵本がたくさんあります。
 先日、遠野にある『こども本の森』という図書館に家族で行ってきました。安藤忠雄さんが設計し、市に寄付をした『こども本の森』は昨年2021年7月に開館。ちょっとした隠れ家のようなスポットがあったり、吹き抜けの階段を登って二階から蔵書を見下ろすことができたり、こどもが喜ぶような仕掛けが施された図書館で、予想通りこどもたちは大喜びでした。
 コロナ禍ということもあって時間制限がある中、何冊かの絵本を読み聞かせしたのですが、帰り間際に娘が持ってきたのが『すてきな三にんぐみ』でした。本書は1969年に初版がリリース、途中改訂された後、現在249刷、国内で増版されている定番中の定番と呼ばれる絵本で、私も幼い頃、両親に買ってもらい、おそらく大好きな絵本ベスト5には入るくらい何度も何度も読んできた想い入れが強い一冊です。とは言うものの、実家に行けば読めるということもあって、我が家では購入していない絵本でもありました。定番中の定番だったので、盲点になっていたのかもしれません。
 そんな訳で娘が直感的に選んできた絵本が『すてきな三にんぐみ』だったことにハッとしました。これほど好きな一冊を娘に読んでいなかったのかと愕然としたのです。『こども本の森』では貸出はしていないので、結局、その場で読むことは叶わなず、帰路の車中でどこか後ろめたい感情がむくむくと広がっていくのがわかりました。絵本は少しづつ購入しているのですが、どちらかと言うと、近年初版というものが中心で定番ものはどこかで避けていました。この mewl で紹介するにあたって、新刊の方が需要があるのだろうと考えていたのです。
 幼少期の頃を思い返してみると、私の両親はさまざまな絵本を購入してくれましたが、まず定番中の定番を優先して選んでくれたような気がします。そういったベースがあるからこそ、現在、新刊の絵本を安心して購入できるのかもしれない、と久しぶりに『すてきな三にんぐみ』を読んでそのように感じました。
 『すてきな三にんぐみ』は、定番中の定番なので私が説明するまでもないかもしれませんが、三人組の強盗のお話。強盗という手段で富というものを漠然と集めていた三人組が、ある女の子に出会うことで実りある富の使い道を見出し、孤児にお城を買ってあげます。物語は善悪が入り混じり、何が善であるのか、何が悪であるのか、線引きがなかなか難しい内容で、小さな頃の私も読み終えた後に釈然としない心持ちになった記憶があります。大人になってから理解し言語化できるようになったのですが、こうした勧善懲悪ではなく、白黒つけられないような曖昧さを許容すること、もう一歩踏み込んで、疑問を持ち自分で答えを発見していく過程など、本書を通じて、芸術と呼ばれる領域が絵本にはあるということを原体験として学んだように思います。
 もちろん近年初版の絵本も素晴らしいものが多くありますが、『すてきな三にんぐみ』のような定番中の定番である絵本には、時の試練を乗り越えた普遍性が必ず潜んでいて、絵本の読み方のベースを築いてくれていたのだなとあらためて感じました。幼少期に想い入れが深い作品でしたが、今回の件でよりその深みが増したような気がします。
 蛇足になりますが、『こども本の森』で娘に読むことが叶わなかった『すてきな三にんぐみ』は、後日購入して、我が家の本棚に加わり、今では娘のお気に入りの一冊となっています。

 

(書評文 | mewl 佐々木新)

 
 

『すてきな三にんぐみ』
作 | トミー・アンゲラー
訳 | 今江 祥智
出版社 | 偕成社

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