ちいさなものとおおきなもの

 映像作家 関根光才さんと、画家 遠藤恭葉さんの共同プロジェクトであるデジタル絵本『ちいさなものとおおきなもの』が、無料で読めるものとして、全ページウェブサイトで公開されています。そして、現在、手にとって読める絵本にするべくクラウドファンディングも行なっているようです (2021年12月5日まで)。
 本作は、映像作家 関根光才さんが、現代社会が初めて経験するパンデミックの中で人々の心が分断されていくのを見て、何かできないかと思い始められたプロジェクト。関根光才さんの物語にあわせ、画家の遠藤恭葉さんが美しい絵を一枚一枚ていねいに描き、約一年の歳月をかけて完成させたものだそうです。
 コロナ禍では、外出が規制され、人とのコミュニケーションが限定的となり、これまで以上に分断が進んだように思えます。特定の職業では仕事がなくなり、失業したり、転職したり、生活が苦しくなった方々もいました(もちろん現在も続いています)。こうした非常時で最初に苦しむのはいつも何も持たない弱者です。特に日本では政府の対応によって、多くの人が右往左往し、分断を深めた印象があります。
 『ちいさなものとおおきなもの』では、”ちいさなもの”と”おおきなもの”という抽象的な表現ですが、たとえば、政府と市井の人、権力者と力を持たない個人など、さまざまな捉え方ができる設定となっています。ただ、特定の層を糾弾するのではなく、異なるレイヤーに住む人々も形を違えど苦しんでいるという描き方がされており、普段交わらないものたちが実は同じ生命体であるということをあらためて思い直させてくれるつくりになっています。
 こうした物語のテーマや舞台設定、そして、語り口の巧さもさることながら、画家 遠藤恭葉さんの木版にグァッシュで描いた美しいテクスチャのある絵画や、デジタル作品ならではの音楽がさらに物語の強度を高めており、大人でも没入するほどの魅力的な世界観がつくりあげられています。生命とは何か?境界線はどこか?という本作品が問いかけているテーマが鑑賞後に、自身の問題としてすっと胸に降りてくるようです。私の妻は、本作品を鑑賞して、コロナ禍で暮らす中で自分が感じていた不安や苦しみが、実は多くの人が同じように感じていたものだった、と思ったそうです。
 デジタル絵本としてリリースされた本作ですが、手にとれる紙媒体での絵本としてクラウドファンディングが行なわれています。数量限定販売で、全ての本にエディションナンバーが記録されるとのこと。ぜひ欲しいと思い、早速、我が家でも妻が一冊支援させてもらいました。クラウドファンディングの期日はもう残り少ないのですが、ご興味ある方は、ぜひ「うぶごえ」のサイトにて詳細をご確認ください。


 
 

ちいさなものとおおきなもの
https://teeny-and-mighty.net
うぶごえ
https://ubgoe.com/projects/88

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