ある家族からのおたより – 冬のおもいで

 以前、投稿していただいたムクドリさんからふたたびお便りが届きました。さっそくご紹介します。

(北海道 ムクドリ)
 お久しぶりです。またお便りを送ってしまいました。息子が成人してからもう十年近く経ちます。こうして一人の生活を送っていると、時間が有り余ってしまい、毎日日記というかとりとめのない散文のようなものを書いてしまいます。現在、子育て現役世代ではないのですが、昔を思い返しながらこどもと過ごした時間を綴ってみたいと思います。
 私が暮らしている北海道の北東エリアは初雪が早く、10月下旬から11月中旬あたりには毎年雪がふります。冬の間、大人たちはあまり外出もせず、買い溜めをしたものを消費する形で、まるで冬眠をする熊のように家にこもります。でも、こどもたちは大人と全然違います。外に出て、雪遊びがしたいのです。かまくら、雪合戦、巨大な雪だるま!私たちの家の庭はいっときさまざまな雪の作品でいっぱいになったものでした。
 夫と離婚をすることになってからこうした冬の催しものが少なくなり、息子も物足りなかったのだと思います。ある日、雪遊びをすると言って、友人の家まで出かけて行ったことがありました。ところが夕方となり、夕食の時間になっても帰ってきません。息子は少し変わったところがあって、ひとりでふらりとお気に入りの場所に行ってお昼寝をしたり、惚けたりすることがありますが、雪が積もった冬では事情が異なります。寝てしまったりすれば凍死をすることだって考えられます (北海道の冬の夜は氷点下となる)。
 夕方になり辺りが暗くなってから友人宅に電話をすると、すでに解散をして、とっくに家に戻っている時間帯だと言うではありませんか。しかし、それからも帰ってくる様子はなく、警察に連絡することに。警察官の方が周辺の方に協力してもらい、捜索を始めたのが夜9時頃のことだったと思います。随分前のことなので記憶違いかもしれませんが、夜中の零時過ぎても捜索が続けられ、その間にも雪が深々と降ってきた為、明け方からまた捜索を開始するということになりました。
 家に帰ってくるかもしれないと言うことで、私は家に待機することになったのですが、当然ながら寝ることも休息をとることもできず、そわそわと家の中を行ったりきたりしていました。非常に寒い日だったので、もう生きて息子に会うことはできない、と半ば覚悟を決めた時、玄関にひょっこり息子が入ってきました。それも大して疲労感もなく、雪に濡れて寒そうでもない。どこにいたの、聞くと、庭の隅につくったかまくらの中で眠ってしまったと言うではありませんか。
 その事件の数日前に息子がつくったかまくらはちょうど庭に植えられた樹々に隠れており、友人宅に行っていたと思っていた私はその存在に全く気がつかなかったのです。足跡も積雪によって埋まっていました。詳細を聞くと、どうやら夕方前には自宅に戻ってきていて、かまくらの中に持ち込んでいた簡易的な食料を食べて、蝋燭の灯りの下で本を読んでいたら、うとうと眠気を襲ってきて、そのまま寝入ってしまったようです。
 その時は、近所の方々や警察の方を巻き込んでしまったことへの恥ずかしさもあって、息子を激しく怒り、しばらくは思い出したくない出来事でしたが、毎年、雪が降り始める頃になるといつもあの日のことを思い出して、つい微笑んでしまいます。いつの間にか、息子との冬の大切なおもいでになっていたようです。

 

 

本記事は読者さんから送っていただいたテキストを元に、誤字の訂正や読みやすさを考慮して改行などを加えています。また、写真は編集部で選んだイメージとなります。
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