『すいかのプール』は、イラストレーター/絵本作家であるアンニョン・タルさんの絵本です。
アンニョン・タルさんは韓国出身で、ヴィジュアルデザインを学び、現在はイラストレーター/絵本作家として活躍している作家さん。『すいかのプール』は、韓国で発売され、人気を博した後、2018年、日本でも斎藤真理子さんによる翻訳がなされて発売されました。
まず本書の特筆すべき点は、ユーモア溢れる空想の力だと私は感じます。誰もが子ども時分に一度は考えたことがあるであろう、すいかを思う存分味わうためのアイデア(巨大化したすいか!)。ヘンゼルとグレーテルに出てくるお菓子の家のような子どもにはたまらない世界観が展開されていきます。個人的には、アンニョン・タルさんの肩の力が少し抜けた(どことなく長 新太さんを思いこさせる作風)、それでいて生き生きとしたイラストがこの空想の世界にがぴったりだと感じました。
もちろん、言葉も添えられていますがそれは僅かで、まず圧倒的な絵の力による面白さに惹かれていきます。大きなすいかが真っ二つに切られて、プールとなり、人々がまるで小人のようにすいかで遊ぶ。梯子をかけて登り、真っ赤な果肉にじゃばん。すいかで山を作ったり、雪だるま(すいかだるま)を作ったり、ばしゃばしゃ泳いだり。思う存分、すいか塗れになるのをみるだけでも楽しめます。
また、田舎という舞台設定も巧みだと感じました。子どもにとってのすいかといえば夏休み。田舎に帰って、みんなで水遊びをして、いつの間にか夕暮れになってしまった、という一夏の思い出が蘇ってくるようです。きっと大人が読めば懐かしい感覚になるではないでしょうか。
作者がヴィジュアルデザインを学んでいただけあって、構図もまた見事で芸術性という観点からみても評価が高い作品だと思います。子どもだけでなく、大人の方にもお薦めします。
(文 佐々木新)