ねむたいひとたち

 小さな頃から眠ることが好きで、大人となった現在も休日は10時間ほど眠ることがあります。微睡に落ちていく瞬間の快楽やベッドで手足を伸ばした時の開放感は数少ない、一日のうちに体感できる幸せな瞬間です。そして、親となり、子どもたちの眠りによってもたらされる彼らの寝顔も喜びのひとつとなりました。
 身体の疲れを癒すといったことだけでなく、眠りによってもたらされる恩恵は他にもあります。たとえば、私の場合、眠りは現実世界とは異なる、もうひとつの世界を体験することに接続されています。ここでいうもう一つの世界は、夢であることを自覚しながら見る「明晰夢」に近いものです。現実で起こり得ないことをある程度、自分でコントロールしながら体験する。いつしかそのような遊びを私の眠りの中で楽しむようになりました。
 おそらくそれは幼い頃、眠る前に両親がよく本を読んでくれたことが影響しているかもしれません。絵本から始まり、児童書まで眠る前の儀式は一日の終わりにふさわしい、小さな私にはなくてはならない冒険と安寧の時間を与えてくれました。きっと両親の隣で安心しながら虚構の世界に浸っていたから、そのまま眠りの世界でも物語の続きを見ることができたのでしょう。
 今回ご紹介する絵本作家 M.B. ゴフスタイン 著の『ねむたいひとたち』は、眠りをテーマにした絵本です。登場するひとたちは、小人のような人たちでいつも眠りの中にいます。パジャマを着て、ナイトキャップを被った彼らは、目がとろんとして、ゆったりと行動している。大きな出来事は起きないのですが、それがまた微睡の心地よさとしてうまく機能しており、絵本を読んでいる私たちにも伝染してきます。そのような安らかな世界観を壊さないようにとても小さな絵本サイズで展開されているのも実に巧みです。
 ゴフスタインは本作以外にも『ブルッキーのひつじ』『画家』『ピアノ調律師』などの絵本を発表していますが、作家性として、私たちの日常の中にある幸せに光をあてるという特長があります。殊更にこれが大切だ、というのではなく、淡々と、ユーモアを交えてそっと差し出してくれる。そういった印象の作家さんです。
 『ねむたいひとたち』で言えば、暖かい部屋で、家族みんなそろって眠りに身を任せること。とてもシンプルなことですが、忙しい人や悩み事を抱えて眠れない人にとっては渇望されるほど大切な眠り。生命をもつものとって穏やかな眠りは幸福のひとつであることを本作を教えてくれます。
 ぜひ寝室のどこかにいるねむたいひとたちと一緒に、眠りの世界を楽しんでください。
(書評文 | mewl 佐々木新)

 
 

ねむたいひとたち
作・絵 | M.B.ゴフスタイン
訳 | 谷川 俊太郎
出版社 | あすなろ書房

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