なぜ戦争をするのか?六にんの男たち

 ロシアによるウクライナ侵攻がいまだに続く現在 (2022年3月末)、積極的に戦争に関する書籍を読んだり、映画を鑑賞したりしています。そんな中、先日、『なぜ戦争をするのか?六にんの男たち』という絵本を読みました。
 『なぜ戦争をするのか?六にんの男たち』は『ぞうのエルマー』シリーズの著者であり、『せかいでいちばんつよい国』などの戦争をテーマにしたものをいくつか手がけたきたデビッド・マッキーさんによる絵本です。子ども向けの絵本で、戦争の恐ろしさ、平和の美しさを訴えてきた作家さんだからこそ、『なぜ戦争をするのか?』というストレートなテーマに惹かれました。
 本書はタイトルの通り、六にんの男たちが登場します。彼らひとりひとりはただ幸せになりたい、と願っている実に純粋で善良な人たちです(「でした」という過去形がふさわしいですが)。しかし、それぞれが努力をして、土地や家を手にした途端、それらを守るため、あるいはより多くのものを得るために、隣の土地を奪いはじめてしまいます。疑心暗鬼に駆られて、自分や家族、仲間を守るため、あるいは肥えさせるために、相手にやられる前に、先に攻める。そして、いつ間にか、あれほど純粋だった人たちが他人を傷つけ、命まで奪うまでに成り下がってしまう。こうした人類の争いのカラクリをデビッド・マッキーさんはわかりやすく描いています。
 かなりデフォルメした線の細い描画のせいか、戦争自体の悲惨さや痛々しさは軽減されていますが、その代わり、その愚かさ、滑稽さが際立ち、非常に批評性が強く出ている作品に仕上がっています。
 とても個人的なことですが、同著者の『せかいでいちばんつよい国』では、ファンタジー色が強く、現実では起こり得ない展開で少し乗り切れないところがありました。しかし、本書は争いにいたる人間心理の根本を突きつけ、非常に考えさせられる内容となっています。きっと子どもたちと一緒に読むことで (ある程度年齢がいかないと難しいですが)、だからこそ、どのように共存しながら生きていくのか? という問いを引き出せると思います。もちろん答えはひとつではないので、子どもと (あるいは大人同士で) 一緒に考えて、わたしだったらこうする、というようなディスカッションに発展しそうです。
 本来、人間には、動物にはない、思考能力があると思っています。それによって人類は素晴らしい道徳や倫理という概念を生み出してきました。わたしたちがより良く生きるために積み重ねてきた、話合いをすること、ディスカションすることの大切さを思い出させてくれる本。
強硬な武力で相手をねじ伏せてしまうことがいまだに起こってしまう時代だからこそ、子どもたちと一緒に読んでほしいです。

 

(書評文 | mewl 佐々木新)

 
 

『なぜ戦争をするのか?六にんの男たち』
作・絵 | デビッド・マッキー
訳 | 中村 浩三
出版社 | 偕成社

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