おはなをあげる

『おはなをあげる』は、詩人ジョナルノ・ローソンさんとイラストレーターのシドニー・スミスさんによって作られた絵本です。
 本書はタイトルにあるように花がモティーフになっていて、全編通じて、主人公である少女の心情が花とそこから展開される色彩に表現されています。
 本書が個人的に面白いと感じのは、言葉が一つも出てこない絵本だということです。もちろん、言葉がない絵本は決して珍しくはありませんが、しかし、この絵本の筆者は詩人なのです。普段、言葉というものを大切にしている詩人があえて言葉を使わなかったことに何か大きな意味が隠されていると思いました。
 推測でしかありませんが、私はこの絵本に出てくる都会の道端に咲く無口の花のように、筆者は読者である私たちに、直接的な言葉ではなく、その姿から何を伝えたいのかを想像して欲しかったのではと思います。これは言葉が巧みではない、本当の感情をうまく伝えられない、小さな女の子の心をメタファーとして花で表現したかったのかもしれません。
 本書に出てくる親子、お父さんと子どもは一緒に歩いていきますが、少女が見ている世界はモノトーンでどこか暗い影があります。最後には女性の元に二人で訪れることになるのですが、父と女性の親密さに対して、少女とその女性はどこか他人行儀のように、心を許しあえていないように見えます。おそらく父が再婚をするのか、恋人なのか、いずれにせよ、少女にとっては実の母親ではない印象です。少女の実の母親は死別したのかもしれませんし、離婚して会えないのかもしれない。そこまで読み進めて初めて、少女がなぜ悲しみに浸っていたかを知り、その中でもわずかな希望を抱いて生きていることがわかってきます。
 心を揺さぶられたのは、その希望が花を通じて、誰かに花を分け与えることによって広がっていくことでした。こうした表現が言葉で説明されるのではなく、あくまで絵と色彩によって語れていくのが実に上品で素敵です。言葉はとても便利なものですが、こうした繊細なコミュニケーションのあり方も子どもと共有したいなと思わせる作品でした。
(書評文 | mewl 佐々木新)

 
 

おはなをあげる
作 | ジョナルノ・ローソン
絵 | シドニー・スミス
出版社 | ポプラ社

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