絵本「オットー 戦火をくぐったテディベア」は、トミー・ウンゲラー著の絵本です。トミー・ウンゲラーと聞いてぱっと思い出す人はそんなに多くないかもしれませんが、「すてきな三人くみ」を描いた人といえば、わかる方も多いのではないでしょうか。児童向けだけでなく、大人向けの風刺ものも手がけているので、どこか知性のようなものがすべての作品に通底しているの特徴です。
トミー・ウンゲラーはとても多作な作家で、絵本だけでも150作以上を発表していますが、本書「オットー 戦火をくぐったテディベア」は、フランス生まれ、そして、第二次世界対戦では、壮絶な戦争を体験したトミー・ウンゲラーの自伝的作品ということになっています。
ストーリーは戦前から仲良しだったユダヤ人の少年と、ドイツ人の少年、その間を繋ぐ役割としてテディベアのオットー、この三人が時代に翻弄される形で劇的に動いていきます。戦争が始まり、ダビデの星という黄色の星をつけられたユダヤ人の少年は、強制収容所に連れていかれ、テディベアのオットーは、その友人であるドイツ人に託されていく。そして、戦争の渦中で、オットーもさまざまな困難にあい、アメリカ兵に救われて、アメリカ本土に渡っていき、その後、骨董屋に置かれたオットーを通じて、また、三人が再会する。
トミー・ウンゲラーの特徴である、シニカルな視点、風刺的視点が戦争の持つやりきれない悲劇を浮かび上がらせており、戦争を知らない世代の子どもでもそこで何か行われていたのか、何を失ってきたのか、人間の暗部とも言える歴史を漠然とでも感じることができる内容になっています。その虚無感、悲しみ、痛みを情緒的な言葉で描くのではなく、例えば、オットーの目のほつれ、補修する為に糸で縫われてきた傷跡といった、絵本でしかできない表現で伝えられているのが素晴らしい。
子どもに迎合するのではなく、リアリズムに基づいて描いているからこそ、戦争の恐ろしさ、むなさしさがしっかり表現されている、と感じました。子どもでも大人でも必ず心に残る作品になると思います。
(文 : 佐々木新)