ある家族からのおたより – ひとつとして同じ色はない

 以前、お便りを送って下さったムクドリさんからふたたびお便りが届きました。とても嬉しいです。さっそくご紹介します。

(北海道 ムクドリ)
 こんにちは。以前、北海道での息子との暮らしについてお便りを送ったものです。今回は、先日ご紹介されていた絵本『よあけ』を読みまして、思い出したことがあり、筆をとりました。夜明けに直接関係なくて申し訳ないのですがお読みください。
 息子が独り立ちをしてからずいぶん絵本を開くことがなかったのですが、孫ができて、最近また絵本を引っ張り出して読むことが多くなりました。mewl さんでもご紹介されていた『よあけ』ですが、私も大好きな作品です。とは言っても私たちの思い出は、夜明けではなく、日暮れ。夜明けと同じくらい日暮れも素晴らしい光景に出会うことができますよ、ということをお伝えしたいなと思っています (笑)
 以前もお話しましたが私の息子は口数が少なく、動物や自然と黙って対話をするような子どもでした。休日の朝はゆっくり起きて、午前中は本を読んでいたのが印象に残っています。息子が外に出るのは決まってお昼ご飯を食べてからでした。年齢を重ねていくうちに自分なりのスポットをいくつか見つけていたようです。私も土地勘がありますので何となくあのあたりなのかなと思う場所はありますが、多くは教えてもらえず、彼の中だけの秘密の場所が結構あったようです。
 そんな彼の秘密の場所ですが、唯一、私の知っている場所が海一面を見渡すことができる丘でした。丘と言いましたが、決して立派なものではなく、小学校などによくある月山のような小高い場所です。
 息子はここで過ごすことが多く、好きな本をよく持っていき、気候が良い時は昼寝をすることもありました。そんな居心地が良い場所でしたから、夕食の時間に戻ってこないことが多々あり、何度も呼びに行った (大体帰ってこない時はそこにいるのがわかっていたので) 記憶があります。
 大抵は呼ぶとすぐに来るのですが、何度かあまりの美しさに足を止めて、数分間、息子と一緒に海を眺めたこともありました。鮮やかなオレンジ色があたりを満たしていて、ふいに息子に視線を向けると妙に大人びて見えた記憶があります。あの時の光景は今でも心に鮮明に残っています。
 思い返すと非常に恥ずかしい話ですが、息子から、豊かな時間を過ごすとはこういうことだよ、と言われたような気がしたものです。そして、こうして息子は自然と対話をしているのだ、と妙に納得したような記憶もあります。
 何度かあの光景を見ましたが、不思議なものでひとつとして同じ色に出会ったことはありません。気候や季節によってさまざまな色が混じり合っていくのです。空の色の変化を調べたら、黄昏、夕映、茜、夕焼け、薄明など時間帯によってちゃんと名前があるようですね。今でも思い立って、あの場所、あの時間に行くのですが、あいも変わらず、違った表情を見ることができます。
 今の私の密かな夢は、息子と孫と一緒にあの光景を見ること。息子たちは海外で暮らしているのでなかなか実現しないのですが、機会を気長に待ちたいと思っています。

 

 

本記事は読者さんから送っていただいたテキストを元に、誤字の訂正や読みやすさを考慮して改行などを加えています。また、写真は編集部で選んだイメージとなります。
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