子どもの心の育てかた

 私たち家族が住む岩手県は、現時点でまだ新型コロナウイルス (COVID-19)の感染者が出ていませんが、政府から発せられた「緊急事態宣言」を受けて、(免疫力が低くなりやすい時期の娘がいることもあって) なるべく外出を控えてひっそり暮らしています。本来であれば「家族のかたち」などの取材をしてお届けしたいのですが、しばらく難しそうですので、書籍や絵本、遊びなどだれでも家で楽しめるようなものを紹介していきたいと思います。
 今回ご紹介する『子どもの心の育てかた』は、児童精神科医 佐々木正美さんが書かれた書籍です。本書は佐々木さんが約50年に渡り、大学病院の児童精神科、小児科、子どもの福祉施設、地域医療施設などで働いた経験から得た、子どもの心の育てかたへの知見がわかりやすくまとめられています。
 とても平易な言葉で書かれているので、おそらく数時間もあればすべて読み終えることができると思います。内容もすっと頭にはいってきます。けれども、そのすべてを完全に理解して実践することは結構難しいことかもしれません。というのも、ここで書かれていることは何度も繰り返し読み、実際、子どもと一緒に暮らすことで体得していくようなことだからです。だから、いつでも手元に置いて、繰り返し自分に語りかけながら読んでいく。そういったタイプの、長い付き合いの本になるかと思います。
 私がこの本を読んで感銘を受けたことはいくつもあります。
 「子どもの反抗は喜ぶべき」、「何でもひとりでできることが自立ではなく、他人との調和の中で主体性を持って暮らしていくことが本当の自立」、「いい子とは大人にとって都合のいい子のこと」などが挙げられますが、なかでも大きく私の既成の価値観が揺さぶられたのは、「過保護」と「過干渉」についてです。特に過干渉は、親が子どもを信頼しきれていないから、あるいは自身の孤独を子どもへの過剰期待に変えてしまっている、という指摘を受けて、自身の育児の中で思い当たる節があり、読みながら思わず息をのんでしまいました。
 親がのぞむことを子どもに押し付けるようなことがいかに悪影響を及ぼすのか、頭ではわかっているつもりでしたが、無意識のうちに私ののぞむことが前面に出てしまっている時があったなと。例えば、危ないもの、汚いものに触らせない、ケガの可能性があることはさせない、勉強の役に立ちそうにないことはやらせないなど。
 もちろん、本当に危険があることはしっかり伝えて辞めさせなければいけませんが、いずれにせよ、子どもが求めるものを初めから禁止せず与えることで、子どもが成長してから本当に必要な自主性/主体性を育んでいきたいとあらためて思わされました。抱っこしてほしい、遊んでほしい、おもちゃがほしい、いっしょにいてほしい。できる限り子どもがのぞむ、その時に与えてあげたい。
 過保護についてはあまり心配する必要がない、ということも私の価値観とは違うところでした。佐々木正美さんの言葉を借りれば、「そもそも人間というのは生まれた時から非常に強い向上心があり、放っておいても自然に発達する」のだと (ただし、障害を持っている場合は特別な訓練が必要)。多くの良質なものを見せたり、良い体験させるなど、まず子どもに選択肢を多く与えることは親の役目だと思いますが、育児とはこうした子どもたちの自然な発達や好奇心/欲求に応えてサポートしていくことが基本的な姿勢である、とあらためて思い直しました。
 おそらく、子どもと向き合う時にもたげてしまう大人の課題は、人それぞれでしょうが、本書を読めばいったい自分の中で何が欠けているのかわかってくると思います。それくらい幅広く、子どもの心の育てかたが書かれています。 
 きっと本書を読み終える頃には、佐々木正美さんの柔らかくも力強い言葉や、挿絵を描かれている岡田千晶さんの繊細で優しい絵によって、子どもとの接しかたに変化が生まれてくるはずです。たとえば、私の場合、無性に娘が愛おしくなり、少し長めの抱っこをしました。ぜひ本書「子どもの心の育てかた」を通じて、子どもを優しく抱きしめる大人たちがいま以上に増えてほしいと思います。
(文・佐々木新)

 
 

子どもの心の育てかた
著 | 佐々木正美
出版社 | 河出書房新社 (2016/7/19)
www.amazon.co.jp

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