もみじのてがみ

 『もみじのてがみ』は小峰書店から出版されている、絵本作家きくちちきさんの絵本です。きくちちきさんはデビュー作である『しろねこくろねこ』がブラティスラヴァ世界絵本原画展でりんご賞を受賞したのを皮切りに、その後も素敵な絵本を何冊も世に出しています。
 最初に本作『もみじのてがみ』のあらすじを少しだけご紹介します。物語は、秋の終わりを知らせる一枚のもみじをつぐみが拾って、隣の山に住むねずみに届けるところから始まります。ねずみはこちらの山にも同じようにもみじがあるのか探しに出かけます。山には赤いものが結構あって (きのことか椿とか)、ねずみはなかなかもみじを発見することができません。ねずみのこうした行動を見て、周りの友人たちも一緒にもみじ探しにつきそって、やがて一面真っ赤なもみじに出逢うというお話です。
 私は小さな頃から色というものが好きで、この絵本に惹かれたのもまさにもみじの鮮烈な色に魅了されたからでした。なぜ色が好きかというと、色はなにかを象徴するものであり、その解釈は実に多様だからです。本作の場合の色は、季節の移り変わりを象徴しています。冬は真っ白に、秋は紅葉、春は萌えるような緑に包まれます。その色を見るとはっきりと自分がどのような季節に今生きているかわかる。それから、感情もまた色で表現できることも好きな理由かもしれません。色には人それぞれの想いがあって、好きな色を聞くだけでその人の個性が滲み出てきます。
 きっと私が小さな頃、話して伝えるということが苦手だったことも関係しているかもしれません。言葉をあまりうまく使えないから、絵を描き、色をつけて表現をしていたのです。そうすると、そこに自分の感情や想いを伝えることがある程度できるような気がしました。もちろん、その当時ははっきりと意識していたわけではありませんが、無意識のうちに言葉で伝えられないメッセージを含ませていたでのはないかなと思います。
 本作『もみじのてがみ』でも、もみじの赤が象徴的な役割を果たしています。まず、赤はパッと目に入る目印の役割を持ち、季節の変わり目、まもなく秋が終わり真っ白な冬がやってくる合図であり、感情的には祝祭のような高揚感もあらわしています。もちろん、こんなふうに分析しながら絵本を読む必要はありませんが、私は小さな頃からたくさん絵本を読んできたので、自然とこのような捉え方をする癖がついてしまいました。小さな頃はこのような読み方はしなかったのですが、大人になった今は娘と一緒に読みながら違った楽しみ方をしています。
 今回は「色」に注目して書いてみましたが、きっと他にもさまざまな捉え方をして (たとえば登場する動物たちがどのようなキャラクターを持っていて、それぞれ何を表しているかなど)楽しめる作品だと思います。『しろねこくろねこ』も色が鍵になっている絵本なので、本作の鮮やかな色に惹かれた方はぜひ一緒に読んでみてください。
(文 佐々木新)

 
 

『もみじのてがみ』
作・絵 | きくち ちき
出版社 | 小峰書店
発行日 | 2018年10月11日
ISBN | 9784338261326
www.komineshoten.co.jp

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