サンテグジュペリの『星の王子さま』は多くの人に愛されてきた名作ですが、その優しい語り口とは裏腹にしっかり内容を理解するのは難しい本と言えるかもしれません。私の場合、最初に『星の王子さま』に出会ったのは小学生低学年の頃でしたが、物語を読み進めることはできたものの(わかりやすい言葉なので)、サンテグジュペリが何をメッセージとして伝えたかったのかはっきり言葉にすることができませんでした。漠然と何か大切なことが語られていると感じるのですが、言葉にして説明することが当時はできなかったのです。
ようやく『星の王子さま』のメッセージを言葉にできるようになったのは、20代前半頃に再読した時でした。どこかおぼろげな記憶をなぞるように読み進めていくと、かつて感じた異世界への高揚感と幼少期のノスタルジックな記憶が同時に蘇ってきたのをよく覚えています。「どこかでこの世界に触れたことがある」「この世界にもう一度戻ってきた」と感じるような、懐かしくも暖かい感覚です。
それからさらに時を経て、子どもが生まれ、良質な物語に触れさせたあげたいと思うようになってから出会ったのが、テキスト中心の書籍から変貌を遂げた、今回ご紹介するポップアップ絵本『星の王子さま』でした。三度目の再読となる『星の王子さま』は ── 幼少期に読んで感動したモノが時を経て「子ども騙しだったのか」と大人の視点から残念に思うものが多い中 ── あらたな発見と学びをもたらすものでした。表現の巧みさ、メッセージ性の深さ、物語としての運びの上手さなどもさる事ながら、時を経ても陳腐化しない普遍的な作品であることを実感し、本質的に優れた作品とはどのようなものか、という視点を私にもたらしてくれたと思っています。
前述しましたが『星の王子さま』は、内容を呑み込むのに時間がかかる作品です。小さな子どもが読んで、すぐにメッセージを理解し、言葉にできるものではありません。けれども小さな頃に触れておくことで、そのメッセージを受け取り、保管しておくことができる作品だと思っています。小さな頃は何と呼んでいいかわからない、けれども大切な何かがここにはある。そのような種を心の中に撒いておく。そうして、大切に持っておくことで、時と共に、自身の中で大きく成長しているのを発見できる。少なくとも私は再読するたびに発見と学びを体験できました。
だからこそ楽しい仕掛け付きのポップアップ絵本として、より小さな子どもたちの元に届けられるのはとても喜ばしいことです。きっと年齢を重ねるごとに本書のメッセージを明確に受け止めるだけでなく、作品の強度=時に耐えねく名作がどのようなものなのか、という本質を見抜く力もなっていくと思います。もちろん、かつて『星の王子さま』を読んだ大人の方にも、お薦めしたい一冊。かつて心に留めた種が変化しているのに気づくはずです。どのような形に成長しているか、是非を手にとって確かめてみてください。
(文 佐々木新)