『「いる」じゃん』は、詩人 くどうなおこさんと漫画家 松本大洋さん共著による作品で、文芸誌 MONKEY vol.11の特集「ともだちがいない!」で掲載されたものに大幅な書き下ろしがなされて絵本になりました。特集のテーマ通り、人間の友だちがいなくたって、周りをよく見渡して見れば、たくさんの友だちがいるじゃん、というとてもポジティブなメッセージが込められていると感じました。
太陽、空、風、山、セミやトマトにミミズ。「わたし」の周りには、大小さまざまな生命があって、どれもが自然の一部、地球の一部、宇宙の一部。朝起きて夜眠るまで、そんな仲間と一緒に生きているから、一緒にそばにいるから、ひとりではないから大丈夫だよ、という何か大きくてあたたかいものに包まれたような感覚になります。
また、この絵本から発せられる何度でも新しく再生していくようなエネルギーは、自然と共に生きてきた、また自然を尊重してきた、日本古来からのアニミズム (生物、無生物を問わない全てのものに霊魂が宿っているという考え方) 文化が根底にあるように感じました。昨今では、学校や会社など非常に閉鎖的な空間の中で人間関係がうまくいかなくなると居場所がなくなって、まさに「ともだちがいない!」という状況に陥りがちですが、本来、私たちの周りを見渡せば多くの生命を感じられる空間が広がっています。
きっと私たち現代人は、人間の社会に閉じこもり(閉じ込められて)、自然や宇宙といった大きな世界へのつながりを忘れてしまい、物言わぬ友だちの言葉を受けることも理解することもできなくなってきたのでしょう。そのような世界へのつながりを本書では、再び紡ぎ直してくれるような透明な力があります。「わたし」という一つの小さな生命を生かしているのは、周りの自然のさまざまな生命であり、彼らとつながりを持つことでみずみずしい自己を保っていけるのだと。そんなふうに私は受け取りました。
とても詩的な絵本ですので、小さな子どもが内容を理解することは難しいかもしれませんが、それでも何か言葉にできないポジティブな、それでいて大きな優しさに包まれる体感を得ることができると思います。ちっぽけな感情が心の中に溜まってきたら、本書を開いて、声出して読んでみてください。「ウッス」。太陽がそう挨拶してくれます。
「おはよう」というと太陽は「ウッス」
まぶしい光で わたしの頬をつまんだ
(お日さまと マブダチだぞ)
いばって まわり見ますと おや
テントウムシも トマトも
太陽に ほっぺた つまんでもらい
どや顔 してるやないか
そうか 太陽はいつも
無限に「ウッス」して
無限にみんなの頬をつまみ
無限にみんな「ともだち」か
そういえば
わたしも この世と
無限に出会い悩み 夢みて妄想
無限に「ウッス」しているような
(MONKEY vol.11 掲載 「いる」じゃんより)
無限に「ウッス」して
無限にみんなの頬をつまみ
無限にみんな「ともだち」か
そういえば
わたしも この世と
無限に出会い悩み 夢みて妄想
無限に「ウッス」しているような
(文 / mewl 佐々木 新)
「いる」じゃん
出版社 | スイッチパブリッシング
著者 | くどうなおこ
1935年生まれ。詩人、童話作家。著書に、詩集『てつがくのライオン』『のはらうた』、絵本『おいで、もんしろ蝶』(絵・ 佐野洋
子)、エッセイ集『まるごと好きです』など多数。
絵 | 松本大洋
1967年生まれ。漫画家。著書に『花男』『鉄コン筋クリート』『ピンポン』『ナンバーファイブ吾』『竹光侍』『Sunny』など。絵本に『かないくん』(作・谷川俊太郎)がある。