家族のかたち – 大江家 前編

 

 宮城県仙台市在住の大江一家は、大江ようさん、大江えみさん、長男 ゆう君、次男 すず君、長女 あおちゃんの五人家族。仙台に一家で移住したのは、2018年4月。大江ようさんが東京で勤めていたアパレルメーカーを退職後、コンテキストの保存と活用を目的とした、テキスタイルファウンデーション「TEXT」を立ち上げて独立したことがきっかけで、仕事のことや子供の将来のことを考えて決断したと言います。
 私と大江ようさんは、東京の共通の友人を通じて知り合いましたが、二人で飲みに行くことはあっても、家族に会うのは初めてのことでした。家族の方がどのように迎えてくれるのか心配でしたが、いざ仙台駅から車で数分、とても落ち着いた一軒家に入ると、子どもたちの賑やかな声に包まれました。人見知りのあおちゃんも少しずつ、ゆう君とすず君に触発されて、微笑むように。
 結局、最初から最後まで、子どもたちの大きな笑い声に包まれる、生命力溢れたインタビューとなりました。

 


3児の父親であり、テキスタイルファウンデーション「TEXT」代表の 大江ようさん

 

東京から仙台へ移住
空間の密度と、こどもの心理や文化について考える
─ 東京から仙台に移住を決めた理由を教えてください。
大江よう(以下 ようさん) : 仙台に引っ越しをしたのは、独立する上で私や妻のアトリエスペースの問題と、三人の子どもたちの子育ての環境を考慮して決断しました。子供たちが二十歳くらいになった時に、未来がどうなっているのか想像したりしながら。
 エドワードホールという文化人類学者がいますが、「かくれた次元」という著書の中で、「~人間がもっとも緊急に必要としているのは、健全な密度、健全な割合での相互活動、適当な量の接触~である。」と書いています。 もう50年前の本なのですが、とても今を予見していて愛読していまして、空間の密度が心理や文化に与える影響について、移住を通してすこし考えてみよう、とも思いました。

 


3児の母親で、動物たちのファブリックブランド「Lawn」代表の大江えみさん

 

大江えみ (以下 えみさん) : わたしは東京で育ったので、最初、仙台への移住は反対でした。友人とも離れてしまいますし、そもそも、仙台で仕事があるのか心配でした。でも、こちらでは義理の母も助けてくれて、子育ての仕方は大きく変わっていきました。東京ではひとりで子育てをしている感覚が強かったのですが、少しずつ、常に誰か他の人の目があるようになっていったのです。
 今にして思えば、東京での子育ては、自分ひとりで3人を受け止めなきゃと思って、いっぱいいっぱいになっていたと思います。周りの目がないのは怖いことですよね。子どもにとって、正解を持っているのが母親しかいなくなってしまう、という怖さがあります。ここでは義理の母も近くにいるし、家で仕事をしている夫もいる。そして長期休みで帰省した時には両親がながいこと孫とあそんでくれるので、みんなで子育てしている感覚が強いです。

 

地域コミュニティとの関わり
子どもたちのつながりで友人ができる
─ 東京から地方のコミュニティに移るにあたって不安はありませんでしたか?
ようさん : 仙台に移住する時にいろいろと調べたり、イベントに参加したりしてみました。そのおかげか、素敵な仕事をしている人たちとは、移住してから一年の間に知り合うことができましたね。東京に比べると規模やコミュニティの若さに違いはありますが、SNSを通してみたら 意外なところで東京の友人と繋がっていたりして、あまり離れている感覚はありません。
えみさん : 仙台に来る前から、子供たちがつなげてくれるという予感はありました。「Lawn」のお手伝いをしてくださるママさんたち、幼稚園の友達など、すぐ友人は出来て、人間関係の寂しさはあまりありませんでした。ただ、ものづくりをしているクリエイターさんと知り合って、友人になるのは結構難しかったです。あまり自分から積極的に行くようなタイプではないので。それでも、一年半で少しずつですが、友人と一緒にかわいい場所に行けるようになってきたように思います。

 

 

家族で一緒に仕事をするファミリープロジェクト
言葉を交わす機会が増える
─ 「Lawn」の仕事は仙台に来てから本格的になっていったのでしょうか?
えみさん : 東京いる時は、あまり「Lawn」の仕事はできませんでした。卸先の開拓や展示会も積極的ではなくて、知り合いや近所の方々に為に作っていました。当初は利益云々というよりも、子育ての他に何かやりたいという想いがあったので、リハビリの要素が大きかったですね。
 それにブランドを拡大するには、性格的に真面目すぎるということもありました。どうも変に気負ってしまうのです。だから、仙台に移住する時、夫に背中を押されるように展示会を開催してもらって、本格的にブランドとしてスタートした形となりました。夫に時間的余裕が生まれて、ブランディングのサポートをして貰ったことが大きかったと思っています。

 



 

ようさん : 妻のファブリックブランド「Lawn」は、自分の「TEXT」とは別の新規事業として考えていて、『スタニギー』というニギれるスタイから少しずつ広げていって、将来的にはそれぞれ関わるようになればなと。夫婦で一緒にやっていくことが重要だと思っているので。
 そうした将来像が僕の中にあったので、最初の吉祥寺のイイダ傘店さんでの展示会は、半ば強制的に場所をとりましたね。もう逃げられない状況を先に作ってやろうと 笑
えみさん : 無理やりやらされました 笑 それによって少しずつ輪が広がっていきました。

 


「Lawn」のアトリエ。動物のスタイ、母親を模した母子手帳バックが可愛いらしい

 

家族の距離間について
すべてを知りすぎないようにしている
─ 一緒に仕事をすることによって、夫婦間でのコミュニケーションは変わりましたか?
ようさん : 最初は、妻からすべてを教えて欲しいと言われていたんです。すべてを透明化して知っておきたいと。利益のこととか、どのような仕事をするのかとか。
えみさん : でも私の性格上、それは難しいことでした。私たちのように独立して仕事をすると、定期的に収入がある訳ではないので、状況を知ってしまうと心配になってしまうんですね。だから、途中から「Lawn」以外のことは知らない方が良いかなと思うようになりました。他のことも口を出さないようにしています。
ようさん : 夫婦間では、全部言ったり共有することが理想だとは考えていません。それよりも、ある程度、不確定要素があっても問題ないような状態にしておく。知らないことがあっても、対応すれば大丈夫という状態。お互い、甘やかしすぎたり、甘えすぎたりせず、共有すべきことは最低限に留めて、絶対やらなければいけないことだけはちゃんと押さえておく。そうしないと、のびのびと良い発想が生まれてこないと思っています。

 


人見知りの長女あおちゃんは世話焼きな女の子

 

[後編はこちら]
>「家族のかたち」シリーズはこちら

 

TEXT : text-textile.com
LAWN : www.instagram.com/lawn_by/
コンテンツクレジット
聞き手 : 佐々木新
写真 : 井手勇貴 www.yukiide.com

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