東京の中心地のひとつ新宿近郊で暮らす成田家。先進的なアートやデザインなどの展示が頻繁に催されるオペラシティや、綺麗に区画された玉川上水旧水路緑道、公園を臨める場所に家族4人で住んでいます。成田真弥さんは現在、地球や人類の課題解決に資するリアルテックベンチャーへの投資育成などを行う企業に勤めており、奥さんである成田彩也香さんはメーカーで教育の仕事をしています。お子さんはお二人で、7歳と4歳の男の子。
私が成田真弥さんにお会いしたのは随分前のことで、昔からとても好奇心旺盛、様々なジャンルに精通している印象です。お子さんに会ったのは一度か二度くらいですが、とても素直な子どもでしたので、普段どのように子どもと接しているのか興味を持ちました。また、SNSを通じて、子どもと一緒にレゴを製作されていて、それが壮大な世界観として表現されていたということもあります。何か特別なコミュニケーションを子どもと取っているのではないかと考えたのです。
撮影日は少し肌寒い日でしたが、家の中は子どもたちのエネルギーに溢れていて、熱気すら感じるほどでした。私も男兄弟だったので、親近感を抱きながらのインタビューとなりました。

子どもは自分の鏡
向き合うと素直な自分が見えてくる
─ 私たちのマガジンでは「子どもを通じて学ぶ」という視点を大切にしています。
子育てに時間が割かれるという意識ではなく、子どもたちと向き合うことで大人も学ぶという意識になっていけば、手がかかって辛いという感覚が変わっていくのではないかなと。
真弥さん :
そういう意味では子どもは「鏡」なのだと切実に感じるようになりました。それが現れていると思うのが、子どもへの怒り方です。子どもたちと向き合っていると、自分の内にある感情がどのくらい出てしまっているのか、試されているような感覚になります。今にして思えば、以前はとても感情的に怒っていたと思います。
─ 子どもを怒る時に気をつけていることはありますか?
彩也香さん :
いつもバランスをとるように気をつけていて、夫婦一緒に子どもを怒るということを避けるようにしています。夫がいない時はもちろん私も怒るのですが、二人がいる時はどちらかが受け皿になるように意識していますね。
真弥さん :
怒る時はそれが役割として怒ったのか、自分の中にあるものを吐き出す為に怒ったのか、意識するようにしています。というのも、自分の心理状況によって、怒り方というものが結構左右されることに気づいたので。やはり自分が追い込まれていると、明らかに怒り方や態度が変わっていきます。
もしかしたら、このことが子育てで一番学んだことかもしれません。子どもにちゃんと向き合うと素直な自分が見えてくる、そういうことがわかってきたのは本当に最近のことです。


─ その気付きに至ったのは何かタイミングがあったのでしょうか?
真弥さん :
直接的なきっかけというものがあった訳ではないのですが、少しずつ変わっていきました。かつては父親としてこうあるべきみたいなところが明瞭にあったのですが、自分の素直な気持ちに照らし合わせると、別に子どもを怒りたくない。初めはきっと理想的な父親像みたいなことが自分の中にあったけれども、そのような父性みたいなものに拘らなくなっていったのだと思います。

─ ご両親にはどのように育てられたのでしょうか?
真弥さん :
私の父親は比較的厳しい人で、家族の中では怒る役割を演じている感じでした。それが私の子育てにも多少なりとも影響を与えていたのではないかと思います。また、父は私をプロテニスプレイヤーにさせたいと3歳からスパルタ指導を始め、無理して怪我をした中学校の終わり頃まで、登校前や放課後や休日は父やコーチによるレッスン漬けの日々でした。テニスをする事自体は好きでしたが、厳しく指導されることは大嫌いでしたし、何より自分の人生を生きていないと感じていました。社会人になりその時に身についた忍耐力などが活かせた部分もありますが、何れにしても抑圧されて育ったのでしょう。しかし、時代が変わってきたこともあり、今では全体的に子育ての在り方が少し変わってきたように思います。私の中では、子供たちには抑圧されずにありのままの想いで育って欲しい、という気持ちが強くなってきました。


人を育てる上で大切な補助線
ひとつの設定を与えることで創造性を引き出す
─ 息子さんたちはレゴ作りも好きなようですが、彼らから創造性を感じることはありますか?
真弥さん :
はい、学ぶべきことがたくさんあります。私も仕事上、自由な発想には自信がある方なのですが、やはり子どもの柔軟なアイデアには圧倒的に負けてしまいます。子どもたちは設定を与えると、それに紐づけて物語を派生させて作っていきます。小さなストーリーを繋げて、より豊かなものにしていく。私の役割は、停滞したら適度に促すくらいのファシリテーター(*1)みたいなものです。もしそのストーリーが子どもたちの中で行き詰まったら、新たな設定を付け加えていくようにしています。テーマや条件を与えると、子どものクリエイティビティはどんどん引き出せる。
私の仕事はスピード感のあるベンチャー経営者と進めるので、柔軟な発想やクリエイティビティが必要とされます。そのような意味でも子どもたちの柔軟な発想方法から学ぶべきことが多い。社会の不確定性が高まり流動的な世界になっていく中で、子供たちの助けを借りて、凝り固まった考え方もほぐれていっているような感覚ですね。


ある設定を与えることで多様に世界を広げていく
─ 具体的にどのような設定や条件を与えるのでしょうか?
真弥さん :
例えば、住みたい街とか、未来の街とか、もしくは一個作ったものをきっかけに広げていきます。ここを基地にしようと言うと、そこから子どもたちは連想して、世界を広げていく。とにかく一個でも設定があれば、どんどん自由に考えて作っていきます。
─ 子どもが作り上げたものに対して、批評というようなことはするのですか?
真弥さん :
批判はしないですが、こうしたら良いかもね、と伝えることはあります。子供たちは驚くほどバックグラウンドやストーリーを考えているので、それをよく聴いて、引き出してあげるというイメージでしょうか。「この部分は何を現しているの?」とか。でも最近では、子どもたちが率先して自分で評価を求めてくることも増えてきました。「どれが一番気に入ってる?」とか「それのどんなところが好きなの?」とか。答えてあげるととても満足そうな顔でやる気を出しているので、子どもにとっての成功体験に繋がっているのでしょうね。


新宿の街にはレゴ作りのアイデアを膨らませる建築物が多い
─ 成功体験を与えてあげるということは大切なことですね。
真弥さん :
子どもたちをよく観察していると、人間というのは「補助線」が大切なんだなあと感じます。掴むところさえあれば、それを頼りに自分で成長していく力を元々持っている。成功体験もひとつの補助線ですね。


長男を全力で追いかける次男
─ 最後に、これからの子育てで大切にしていきたいことを教えてください。
彩也香さん :
まだ小さな男の子なので、きっと甘えたい時もあると思います。だから必ず一日に一回は、私はあなたたちを愛している、ということを言葉や抱擁を通して伝えようと思っています。子どもたちには、愛されている感覚を持って欲しいので、しっかり態度として示したいと。果たして子どもたちにどれくらい伝わっているかわかりませんが。
真弥さん :
子どもたちが成人した時、今のまま素直な気持ちを表現できるような大人になって欲しい。ですから、能力を伸ばしてあげたいというよりも、できる限り子どもたちの選択肢を増やしてあげたいと思っています。


あとがき
この「家族のかたち」という企画は、クローズドになりがちな家庭の内部を少しでも多くオープンにして、同じような悩みや喜びを持っている人に届けたいと思っているシリーズですが、今回の成田さん夫婦へのインタビューは、このマガジンで大切にしている「鏡」というキーワードが飛び出して思わず嬉しくなってしまいました。
私自身、「鏡」という言葉が非常に好きで、”鏡に向き合う”という姿勢は、人生を豊かに生きる上で欠かせないものだと思っています。それは誰か他者と向き合っている時、一方的に教えたり、教わったりするという関係性ではなく、向き合い方によって必ず学びが得られるものだと考えているからです。子どもと一緒にいる時、子どもと遊ぶ時、時間が割かれていると捉えるのではなく、自身の学びとして捉えることができたら、子育てがまたひとつ豊かな実りをもたらすものになるかもしれない、と成田さん夫婦を通じてさらに確信を深めたように思います。
また、インタビューを通じて、子どもに補助線を与えるという言葉に出会えたことも大きな学びでした。子どもたちにどのような補助線を与えてあげたら良いか、実践を交えて学んでいきたいと考えさせられました。
 
*1 ファシリテーター
自身は集団活動そのものに参加せず、あくまで中立的な立場から活動の支援を行う役割の人。例えば会議を行う場合、ファシリテーターは議事進行やセッティングなどを担当しますが、会議中に自分の意見を述べたり自ら意思決定をすることはありません。これにより、利害から離れた客観的な立場から適切なサポートを行い、集団のメンバーに主体性を持たせることを目的とします。
 
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