家族のかたち – 成田家 前編

 

 東京の中心地のひとつ新宿近郊で暮らす成田家。先進的なアートやデザインなどの展示が頻繁に催されるオペラシティや、綺麗に区画された玉川上水旧水路緑道、公園を臨める場所に家族4人で住んでいます。成田真弥さんは現在、地球や人類の課題解決に資するリアルテックベンチャーへの投資育成などを行う企業に勤めており、奥さんである成田彩也香さんはメーカーで教育の仕事をしています。お子さんはお二人で、7歳と4歳の男の子。
 私が成田真弥さんにお会いしたのは随分前のことで、昔からとても好奇心旺盛、様々なジャンルに精通している印象です。お子さんに会ったのは一度か二度くらいですが、とても素直な子どもでしたので、普段どのように子どもと接しているのか興味を持ちました。また、SNSを通じて、子どもと一緒にレゴを製作されていて、それが壮大な世界観として表現されていたのを知ったということもあります。何か特別なコミュニケーションを子どもと取っているのではないかと考えたのです。
 撮影日は少し肌寒い日でしたが、家の中は子どもたちのエネルギーに溢れていて、熱気すら感じるほどでした。私も男兄弟だったので、親近感を抱きながらのインタビューとなりました。

 

 

都心ならではの多様性のある暮らし
緩やかな繋がりと捉え方で広がる空間
─ 新宿という場所で子育てをしようと思った理由はありますか?
成田真弥さん (以下 真弥さん) :
一人暮らしの時から京王線に住んでいて、路線も馴染深いということと、最初の就職先が新宿で、会社から何キロ以内という条件を満たせば住宅手当が出たことが大きいですね。新宿は家賃が高いけれども、遠くで暮らすことと同等か、それより安く暮らせる状況でした。それから、私たち夫婦が買い物好きだったということもあります。ちなみに、ここはほぼ新宿ではありますが、住所は渋谷区になります。渋谷も近いので地の利は抜群です。
─ 子どもがいる以前からここにいたのですか?
真弥さん :
はい。結婚は25歳くらいの時でしたが、やりたいことがいっぱいあったので、すぐに子どもをもうけるという選択肢はあまり考えていませんでした。夫婦ふたり、あるいは個々それぞれの楽しみや興味を追求したかったので、5年くらいは夫婦ふたりだけの時間を大切にしたいと思っていました。

 



 

─ 実際、この場所で子育てをしてどのようなことを感じますか?
成田彩也香さん (以下 彩也香さん) :
たまたま私たちはここで子育てをすることになりますが、渋谷区は意外にも子育てに優しいことが少しずつわかってきました。例えば、保育園の数がどんどん増えていますし、今でこそ保育料はどこも無料になりますが、以前は他の区に比べて安かったです。また、中学校までは医療費が無料、予防接種も他の区よりも補助が出て、医療が厚く受けられるという特徴もあります。特に区長が若い方になった頃から、目に見えるように変わったと思います。
真弥さん :
狙っていた訳ではないのですが、住んでみたら偶然住みやすかった。社会の流れとして、子育てへの意識や支援が年々よくなっているということもありますが、区長が同世代くらいなので似たような子育て世代にとって、優しい政策になっていったのかもしれません。

 


 

─ 反対に暮らしていて気になることはありますか?
真弥さん :
甲州街道が近いので排気ガスは気になりますね。特に子ども達への身体的な悪影響は未知数なので心配です。後は騒音問題もありますが、家にいる分には窓の防音対策のおかげもあり、あまり気になりません。
─ 地域のコミュニティはどうでしょうか?
真弥さん :
子どもたちが通っていた保育園の父母の集まりは比較的活発ですね。また、都心ならではだと思いますが、多様な人がいるということも特徴かもしれません。私の仕事に近い、デザイン関係、クリエティブ関係の人も多くいるので、共通の知り合いも多いです。
そのような意味では人付き合いでも選択肢があると思っています。私は地元が群馬の田舎で、良くも悪くもそこは村社会のようなところがあって、何をするにしても密接にコミュニティに参加しなければいけない。それに対して、ここではもっと緩やかに人が繋がっている印象で、個人的には暮らしやすいと思っています。もちろん、より濃い人間関係を求める人には合わないかもしれませんが。
彩也香さん :
自分たち次第で人間関係の距離感を保てる、というのはありますね。強制的なものはなくて、個人的には心地良いと感じています。もちろん会えばお話はしますし、困った時に助けてもらったり、家族ぐるみで遊び人はいますが、べったりずっと一緒にいなければいけないという状況ではありません。私たちは家族だけで過ごす時間も大切にしたいので、こうした自由度の高いコミュニティの中では暮らしやすいですね。

 

 

─ 確かに多様性があるということは都心ならではの特徴かもしれませんね。
真弥さん :
人の繋がりや様々な場所へのアクセスも含めて、心の持ちようでいかようにも選択肢があるのは、私たち家族にはフィットしています。家が狭いと言えば狭いけれども、安心できる空間は自分の考え方ひとつで広げられます。心地よく過ごせる空間というものを考えれば、例えば、オペラシティや公園などを家の延長としても捉えることもできます。

 

 

枠組みや背景を用意して遊ぶ
子どもとの時間が学びへと変化
─ 家族ではどのような場所に行くのでしょうか?
真弥さん :
玉川上水旧水路緑道や新宿中央公園、あと少し足を伸ばして代々木公園などでしょうか。遊ばせやすいので公園には良く行っていますね。あと、遠出する場合はお台場です。お台場はとにかく空間が広々しているので、子ども達がのびのび遊べるのがいいですね。あとは空間にも遊び場にも多様性があって、いつも新鮮な体感ができます。私自身はアートやデザインが好きなので、子どもたちを連れてオペラシティでの展示にも足を運んだりしますね。
いずれにせよ、どこに行くにしてもこの場所は便利です。私たち夫婦は二人ともペーパードライバーなので、新宿から無数に路線が走っていて、どこにでも行けるというのは本当に助かっていますね。

 

 

─ お二人とも息子さんですが、男の子を育てる感覚はどのようなものでしょうか?
真弥さん :
いかにも子どもらしいというか、純粋で素直ですね。よく私と「戦いごっこ」をしているのですが、完全に役になりきります。大概、私が悪役をやるのですが、最近では長男が悪役をかってでるようになりました。どうしてかはわかりませんが、長男は父親愛が強くて、本当に自分の一部だと思っているくらいなので、そのような意味では父親がいつもやっている悪役をやってみたいと感じたのでしょうか。さすがに次男からあまりにも攻撃され続けると嫌がりますけどね 笑
次男はいつもヒーロー役でその時々の流行りのものを演じています。実物としての変身ベルトもあるけれども、道具がなくとも自分でストーリーを考えて演じますね。戦い自体はもちろん好きなのでしょうが、ストーリーを作ることの方が好きなように感じます。自分の世界観、シチュエーションをとても大事にしていて、ダンボールや布団、ベッドや椅子などを何かに「見たて」て遊ぶことが多いです。例えば、どこか一角を囲えば家や基地や宇宙船になるので、家の中だけれども、もうひとつ異なる空間を作って、自分たちだけの架空の世界で遊んでいます。

 

 

─ 物語や背景を大事にしているのは父親譲りですね。いつもそのようなことを意識して遊んでいるのですか?
真弥さん :
元々は無意識に子ども達のやりたい事に付き合っていましたが、仕事でも設定や背景を頻繁に扱う事もあって、少しずつ意識的に遊ぶようになっていきました。最近では、場所や状況だけ設定してあげて、後は子どもたちの自主性に任せる場合も多いです。自分の中では、子どもたちとの遊びは半分実験というところもありまして、彼らがその設定を使ってどのように考えて、どのように振る舞うのか、そこでの反応を観察することで勉強させてもらっている感覚です。

 



 

─ 子どもから得られる学びに変化が生まれたのはどのくらいでしたか?
真弥さん :
もちろん子どもは可愛いという前提はあるのですが、正直、以前は時間が削がれるというネガティブな側面も強かったです。本当に子どもとの時間に学びがあると捉え始めたのは、ここ2年間くらいのことですね。仕事も関係していますが、ここ数年で心理学や哲学に興味が湧き始めたことも大きいです。子どもは無垢な存在から社会的な人間へと日々成長をしていく。彼らの振る舞いや反応を観察していると、人間を理解するためのヒントが沢山見つかると感じました。これまでいろいろな人や本から人間について学んできましたが、最近では子どもから学ぶことが一番多いですね。

 

 
 

後編に続く

 

コンテンツクレジット
聞き手 : 佐々木新
写真 : 井手勇貴 www.yukiide.com

 

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