でてきて おひさま

 絵本をこどもに読みきかせ始めて、約2年間が経過しました。自身の幼少期を思い返しながら、あの時、両親が読んでくれたように子どもと接することができたらいいなと漠然と思ってきましたが、そのあいだ予想していないこともたくさん起こりました。
 まず驚いたことのひとつに、親が好きな絵本を、子どもも同じように好きなるわけではないということでした。絵本に限らず考えてみれば当然のことですよね。子どもそれぞれに個性があり、好きなものが違う。血が繋がっているからと言って、同じものを好きになるはずがありません。
 特に娘は主義主張というか好き嫌いが明瞭なので、そのことが顕著に出す。それを受け入れてから、子育てをする基本的姿勢が子どもが好きなもの、得意とすることを中心に見守る、あるいはサポートするという態度に固まっていきました。絵本を一緒に読んで学んだ、大切なことのひとつです。
 もうすぐ一歳になる息子はまだ絵本の好みがわからないのですが、娘ははっきりとしていて、その顕れの一つが今回ご紹介する『でてきて おひさま』という絵本です。本書は1958年「こどものとも」28号で発刊されたものですが、今年6月に、新しく翻訳、絵も描き直されてリリースされました。調べてみると、スロバキア民話が元型となっており、ほりうち みちこさん、ほりうち せいいちさんのご夫婦で制作をされたようです。
 『でてきて おひさま』は、姿を隠した太陽を探しに小さなひよこたちが冒険に旅立つことから始まります。その道中でさまざまな動物たちと出会い、時に教えを乞うたり、仲間として一緒に歩んだりします。そして、最終的におひさまと出会い、ふたたび世界に光をもたらすというあらすじになっています。
 先述したように、絵本を読みきかせるうちに娘が好きなものが明瞭になってきました (同じようにあまり興味がないものも)。それらがある一定数溜まってくると、共通するものがぽっかり浮かびあがってきます。あくまで私の娘の場合ですが、『でてきて おひさま』のような、主人公がある目的の為に、旅 (短いものでも、長いものでも)に出て、そこで仲間と共に目的を果たす、という物語がどうやら好きなようです。
 この物語構造は、物語としてとても基本的な原型で、たとえば、『桃太郎』『ブレーメンの音楽隊』『指輪物語』など、王道とも言える物語です。その中でも娘は王道から少し外れた、設定が少し面白い、派生ものの作品に惹かれるようです。
 考えてみれば、多くの仲間に囲まれて、目的を達成することに生きる意味を見出している人はたくさんいます。まだ、小さなこどもなので、そのような生き方が絶対向いている、目指していると決めつけることはできませんが、親がこどもを見守る上でそのような傾向があるということを知れたことはとても喜ばしいことだと考えています。
 これから時間の経過によって変化していくかもしれませんが、その人間の核となるものが幼少期に垣間見れるものだと仮定するならば、いつかこどもたちが年齢を重ねて、「わたし」らしさに迷いを感じた時、「あなたが小さな頃はこんな絵本が好きでこんな傾向があったよ」、と伝えたい。私自身、両親に幼少期の頃の傾向を聞かされるたびに原点に立ち返るきっかけになったこともあり、親となった今、同じようなことを実践できたらいいなと思っています。
(書評文 | mewl 佐々木新)

 
 

「でてきて おひさま」
ほりうち みちこ 再話
ほりうち せいいち 絵

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