パパ、お月さまとって!

 どのくらいの人が共感してくれるかわかりませんが、私は小さな頃から日中輝いている太陽よりも、夜に輝く月の方が好きでした。太陽は世界を克明に照らしてくれますが、見たくないものまではっきりと映し出してしまうのが幼心に恐ろしく感じる時があって、おぼろげに世界を照らす、そうした距離感(想像する余地が残されている)の月が私としては心地良かったのだと思います。
 あるいは、人類史が持つ月の物語には神秘的なものが多いということもあるかもしれません。「かぐや姫」、アンデルセンの童話「白鳥の王子」、「ナルニア国物語」。暗くなる前に上空のどこかに現れる月は、物語が始まる兆し=サインでもあります。毎日少しずつ変化して、ある夜には美しいほど克明に現れたかと思えば、ある夜にはうっすらと存在を隠すかのように現れる。手を伸ばせば、つかめそうで、つかまえることができない。そのような月に小さな私はすっかり魅了されていたのでしょう。
 そのような私にとって、『はらぺこあおむし』の著者エリック・カールの『パパ、お月さまとって!』は、大好きだった物語のひとつでした。仕掛け絵本の斬新さもさることながら、私が興味深く感じたのが、月の満ち欠けというものが私たちが生きる上での大切なメタファーになっていると思ったことでした。もちろん、小さな頃はその意味をはっきり理解していた訳ではないのですが、おぼろげに (まさに月が照らす光のように) この絵本で語ろうとしているメッセージが大切なものだろうという予感があったのです。
 娘が生まれるまで随分長いあいだ、この『パパ、お月さまとって!』を読むことはなかったのですが、先日、娘と一緒に図書館に行った際に、偶然にも再会することになりました。それも今回は、小さなものではなく、ビックサイズ (59cm×42cmで持つと本当に大きい絵本)です。懐かしくもどこか新鮮に感じたのは、きっとその大きさのせいかもしれません。このサイズになると、仕掛けも大胆で、月や梯子など物語に欠かせないものが印象的に(かつて読んだ時よりもよりスケールが大きくなって)物語に登場します。
 そして、ふたたびこの絵本を娘と一緒に読んで、幼い頃に感じていた、この物語の月の意味が私の心の中でぽっかり浮かび上がってきたように感じました。僕にとって、この絵本で語られる月という存在は、生命そのもののメタファーだったのではないかな、と今ではそう思うのです。盗まれたり、消えてしまったり、と言った、どこか儚さがあるからこそ愛おしく感じる、まるで子どものような存在。実際、私に子どもが生まれたからそう感じているのかもしれません。
 そんなことを思いながら月を眺めて見たら、かつてはどこか悲哀すら纏っているように感じた月が、どこか愛らしい存在に変化していることに気づきました。もしかしたら、月に対する想いはこれからも変化していくのかもしれません。いずれにせよ、いまは、娘と一緒に月の物語『パパ、お月さまとって!』を読んで、その経緯をたのしんでみようと思っています。
(文 佐々木新)

 
 

ビッグブック パパ、お月さまとって!
作 | エリック・カール
訳 | もりひさし
サイズ | 59cm×42cm
ページ数 | 40
ISBN | 978-4-03-321360-6

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