愛してるって言っておくね

 先日、Netflix で鑑賞した『愛してるって言っておくね (原題 : If Anything Happens I Love You)』が素晴らしい映画でしたのでご紹介します。本作は、トイストーリー4の共作者であるウィル・マコーマックが監督として、ローラ・ダーンがプロデューサーとして参加している短編アニメーションで、子どもを持つ大人に対してお薦めしたい一本です。
 最初、本作を鑑賞したのは、ワンオペ育児中、娘が昼寝をしている数時間のうちにさらっと見れるものとして気軽に再生したことからでした。たった12分ほどの尺ということもあって、子どもが起きたとしてもちょっとした合間に見れるかもしれないと思ったのです。ですから、ちょっとした息抜きとして、内容はあまり期待を寄せていなかったのですが、冒頭直後から一気に引き込まれてしまい、鑑賞後はとても好きな作品になりました。
 『愛してるって言っておくね』は、映画でしか表現できない要素が含まれている作品だと思います。劇中ではセリフがひとつも現れず、すべてアニメーションや音楽によって、登場する人々が抱えている状況や心の動きが表現されていきます。その表現が実に切れ目なく繋がりを持っていて、飽きさせない工夫がなされています。それぞれのシーンの繋がりを滑らかに、ある時には心地よいメタファ(比喩表現)も用いて美しく演出する。それだけでも見る価値がある一本です。
 また、映画としての美的センスもさることながら、子どもを持つ親にとって、本作のストーリーは興味深いものになると思います。テーマは子どもの喪失とその後の向き合い方。
 おそらく本作は米国で多発している学校内での銃乱射事件をもとにしていると思われます。その為、昔鑑賞した映画『エレファント』を思い出したと同時に、個人的には、昨年、川崎市登戸で起こった通り魔事件も想起しました。きっとこの事件が自分の娘が間も無く生まれるというタイミングで起こったこともあり、子を失った親の気持ちや、犯人の生い立ちのやるせなさなど、強烈な記憶として刻まれたためだと思います。
 近年、こうした凄惨な事件を元とした映画では大抵加害者側の報道やそれを追った作品が多い印象ですが、被害者側がどのように事件に向き合い、立ち直っていくのかについてはあまり表に出てこない印象があります。おそらくそっとしておいて欲しいということもあるのだと思いますが、『愛してるって言っておくね』では、被害者の夫婦のその後に光があたります。
 最後に、作品中で流れる音楽、King Princess の『1950』が印象的だったことも付け加えておきます。ミカエラ・ムラニー・ストラウスの詩ですが、本作にふさわしい美しくも力強いものでした。
 かつて大切な人を失くした人、子どもや守りたい人がいる方々に見ていただきたい映画です。育児中忙しい時でも気軽に(12分ほど)観賞できますのでぜひ。
(文 佐々木新)

 
 

『愛してるって言っておくね』
(原題 : If Anything Happens I Love You)
www.netflix.com

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