かがくのとも『こけをみつけたよ』

 『かがくのとも』は昨年50周年を迎えた、子どもの強い好奇心=子どもの科学の芽を大きく伸ばす絵本シリーズですが、私も幼少の頃は『かがくのとも』をよく読んでいました。育った環境が、一歩入れば未開発の山という大自然だったということもあり、生活やあそびの中に植物や生きものが当たり前のようにあったことも大きいでしょう。「そうだったのか」「知ってより興味を持った」ということが多くあったように思います。
 大人になるにつれて、かがくには他の楽しみを見出していくようになりましたが、最近、久しぶりに『かがくのとも』シリーズを読んでみました。手にとったのは、『こけをみつけたよ』という絵本です。
 本書『こけをみつけたよ』は、「こけ」の生態を子どもにもわかりやすく描いた絵本ですが、とても興味深いと感じたのは、大人でも小さな頃の感覚に戻って、植物の神秘にふれることができることです。普段、忙しく時間に追われて見逃している世界を取り戻すような感覚になります。
 こけは植物の中でも決して目立つ存在ではありません。花も咲きませんし、とても地味です。もしも「好きな植物は何?」と聞かれて、「こけ」と答えたら、少し変な人と思われてしまうかもしれません。けれども本書を読めば、その考え方が180度変わってしまう可能性を秘めています。
 さわってみると、やわらかくふかふかしていたり、ねっこがない「こけ」はからだ全体で水を吸収したり、胞子となって飛んだ小さな塊からやがて大きな塊になったり、「こけ」の塊の中に他の植物の種が落ちると土がなくても立派に育成することができたり。小さな世界でも、とてもドラマティックな出来事が起こっています。
 私がこうした「こけ」の生態を知り、興味を持ったのは、人の影に隠れながらも懸命に生きている人に共感を覚えるせいかもしれません。私たちが暮らしているこの世界では、どうしても華やかだったり、声が大きい人に耳目が集まります。特徴に乏しく、地味な人はどうしてもその影に隠れてしまいがちです。でも、そうした名もない人たちの物語にも多くの美しいものが含まれています。
 本書はそうした小さなものたちに向ける視点の大切さ、生きる上での知恵が描かれています。きっと、「こけ」と同じように、私たちのまわりにも素晴らしい力を秘めた人たちがいっぱいいるのだと思います。あまりプレッシャーをかけたくありませんが、私の子どもには、そのような方々を大切にするような、そんな心を持った大人になって欲しいと思っています。

(文 佐々木新)

 
 

こけをみつけたよ
かがくのとも 2019年10月号

今津 奈鶴子 作 / 上野 健 監修
定価 | 本体407円+税
出版 | 福音館
www.fukuinkan.co.jp

Leave a Comment